鉄は血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの材料となるミネラルです。体内に鉄が不足すると疲れやだるさ、肩こりといった症状が現れるだけでなく、シミや抜け毛など美容面でもダメージを受けてしまいます。また鉄はコラーゲンの合成にもかかわっているため、不足するとシワの原因にも。健やかで美しい日々のために、毎日コツコツと摂りましょう。

Q:体内の鉄が不足するとどうなるの?
体内の鉄が不足するとヘモグロビンを順調につくることができず、酸素の運搬や、老廃物である二酸化炭素の回収が滞ってしまいます。すると全身の組織が酸欠状態になったり、二酸化炭素がたまったりして、疲れやだるさ、肩こり、動悸、息切れ、めまい、頭痛などの症状が現れます。症状がつらかったり、続いたりする場合は、一度受診しましょう。
Q:鉄は美容にも関係しているの?
鉄不足の状態だと、次のように肌にダメージをもたらします。
●顔色が青白くなる
血液が赤い色をしているのはヘモグロビン中の鉄によるもの。鉄不足により血液中のヘモグロビンが少なくなると、皮膚や粘膜の赤みがなくなり、顔色が悪くなる。
●シミが増える
肌への酸素供給量が減って肌の新陳代謝が低下し、シミができやすくなる。
●ハリがなくなりシワが増える
肌の潤いを保つ役割があるコラーゲンの原料はタンパク質で、体内でコラーゲンを合成する際、鉄、ビタミンCが必要。鉄が不足するとコラーゲンが合成できずシワができやすくなる。
また、髪にもダメージが及びます。髪は毛根にある毛乳頭が酸素や栄養分を毛細血管から吸収して健康を保っています。鉄不足により体内の酸素が少なくなると、毛乳頭まで十分な酸素や栄養分が行き届かず、髪の毛が細くなったり、抜け毛が増えたりします。
鉄はコラーゲンの合成にも必要な栄養素。コラーゲンは、皮膚だけでなく、髪や目、筋肉、血管壁、骨など、私たちの体の組織のあらゆる部位に含まれ、体をつくる上で欠かせない線維性のタンパク質です。
コラーゲンは特に皮膚や髪などに多く含まれているため、美容に欠かせない物質。コラーゲンはタンパク質でできていて、合成の際に十分な酸素が必要で、鉄とビタミンCは重要になります。鉄が体内に十分あることは、コラーゲンの合成、美容に有効といえます。
Q:女性が鉄不足になりやすい原因は?
女性に鉄不足の人が多い理由は、次の通りです。
●月経
月経による出血で毎月定期的に鉄が排出される。
●出血性の病気
子宮筋腫や子宮内膜症などが原因で、月経時の出血量が増えることや、痔などの出血で鉄が不足する場合もある。
●ダイエットによる偏食
食事から摂る鉄が不足する。
●加工食品を多く摂る
加工食品に添加物として使用されているリン酸カルシウムは、鉄の吸収を妨げる性質がある。そのため加工食品やインスタント食品を多く摂ると、効率よく吸収できなくなる。
鉄は、血液中だけではなく肝臓や脾臓にも貯蔵されています。各組織で鉄が不足すると、まず肝臓や脾臓に貯蔵されている鉄が消費されます。それでも足りない場合は血液中の鉄が消費されていきます。そのため、鉄の摂取量が少なくても貯蔵分があるうちはすぐに鉄不足の症状が出るわけではありません。鉄不足は気づかぬうちに少しずつ進行していくのです。
Q:鉄を効率よく摂取するには?

動物の筋肉の部分から、鉄やタンパク質を効率よく摂取することができます。赤身の肉(ヒレ肉やモモ肉など)や魚(マグロやカツオなど)を意識して摂りましょう。
青菜や海藻類にも鉄は含まれていますが、植物性の食品には食物繊維も多く含まれています。食物繊維には、鉄とくっついて排泄を促してしまう作用もあるため、鉄の吸収に関していえば効率が悪くなります。
また、鉄はビタミンCと一緒に摂ると吸収率が高くなります。ビタミンCは加熱調理により失われやすいのが難点です。加熱による損失が少ないピーマンやじゃがいもなどと一緒に摂ることをおすすめします。また、食事にビタミンCが多く含まれるオレンジジュースやグレープフルーツジュースを追加してもよいでしょう。
Q:春におすすめの鉄補給メニューは?

春には、ビタミンCが多く含まれる春野菜や果物を上手に取り入れた、次のようなメニューがおすすめです。
●ジャーマンポテト
じゃがいもは加熱調理してもビタミンCの損失が少ない野菜。ベーコンと一緒に摂ることで、タンパク質の補給にもなる。
●カツオのカルパッチョ春野菜添え
赤身の魚であるカツオには鉄が豊富。同時に、鉄の吸収を高めるビタミンCが豊富な春野菜を、加熱調理せずにいただける一品。
●ローストビーフの春キャベツ巻き
赤身の肉であるローストビーフには鉄が豊富。ビタミンCが豊富な春キャベツを、加熱調理せずに一緒に摂ることができるお手軽メニュー。
●イワシのチーズ焼き
イワシには鉄が豊富。チーズと共に摂ることで、エネルギー補給にもなる。
●マグロとアボカドのわさびソースあえ
マグロの赤身には鉄が豊富。アボカドと一緒に摂ることで、エネルギー補給にもなる。
Q:食生活を変えても鉄不足が気になる場合は?
鉄は一度に大量に摂ろうとしても、体に吸収される量には限界があり、過剰に摂った分は体の外に排出されてしまうので毎日コツコツと摂りましょう。1日3食少しずつ、鉄が豊富な食材を摂ることが理想ですが、実際のところ毎食意識して赤みの肉や魚を摂ることは難しいものです。
市販のドリンク剤やサプリメントには、鉄が含まれた物がありますので、それらを取り入れることも一案です。ドリンク剤の中には鉄の他、不足しがちなビタミン類やローヤルゼリーが含まれ、不快な鉄の味がしない飲みやすい物などがあります。服用する際は用法・用量を守りましょう。
監修/本田佳子先生(ほんだ・けいこ)
女子栄養大学栄養学部教授。1983年女子栄養大学卒業。86年虎の門病院栄養部第5科長、92年同栄養部副部長、96年同栄養部部長、02年東北大学大学院医学系研究科修士課程終了、04年より現職。管理栄養士。日本病態栄養学会常任理事、日本臨床栄養学会評議員、日本栄養改善学会評議員など。『栄養ケアのキーワード166』(メディカ出版)他著書多数。