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第2話 肥料作りは、化学と算数と体育の世界だった

自粛生活が続く中、「外に出て太陽の光を浴びたい!」「体を動かしたい!(でも運動はイヤ)」という欲求を解消すべく2021年の春から参加した、有機・無農薬農業と養蜂を教えてくれる農教室。農業・養蜂で初めて触れる自然界の不思議、生きる知恵、そして新しい生き方の模索。セルフドクター編集室の横山が、自らの体や心で得た学びをシェアしていく連載企画です。

肥料作りは、化学と算数と体育の世界

堆肥作りはワイン作り

落ち葉集めから2週間後、いよいよ堆肥作りにとりかかる。堆肥は、堆肥枠と呼ばれる膝上くらいの高さの木枠の中に、落ち葉と藁、鶏糞、米ぬかを入れ、大量の水を加えながら、人が乗って踏みつけて作る。自分も含め皆さん最初は遠慮がちに踏んでいたものの、踏んでいるそばから材料は遠慮なく足されていくので次第に大胆になっていく。踏み固めたら木枠を上にずらし、さらに材料を投入しながらフミフミ。

堆肥枠の中に何人も入ってギュウギュウに踏み固める。

堆肥枠の中に何人も入ってギュウギュウに踏み固める。

子どもの頃に泥んこになって遊んだ時の楽しさを思い出しながら、なぜか既視感…。そうだ、ワイン作りだ。昔は収穫したブドウを大きな桶に入れ、足で踏んで果汁を出したという。あくまで観光用だが、今でも山梨には体験できるワイナリーがあるらしい。ぶどうの方が柔らかいし、いい匂いがするだろうけど大変だよなぁとは、堆肥作りを経験して言えること。脚力が必要だし、足元が安定しないので体幹も鍛えられそうだ。

 

雨がかからないようにブルーシートをかぶせてこの日の作業は終了。発酵が進み数日後には60~70度の温かさになるらしい。この後は、水を補給してかき混ぜ発酵を促す「切り返し」と呼ばれる作業を3~4週間おきに行い、2~3カ月で堆肥は完成する。

 

でもこれ、法人だからできる規模。個人ならコンポストだろう。そちらはいずれ「東京自産自消」で。

ボカシ肥の‟ボカシ“って何ですか?

堆肥と同時進行で作ったのが、もう1つの肥料、ボカシ肥である。「ボカシってどういう意味ですか?」と聞きたいくらい無知な私だが、ちゃんと資料をいただけたので一安心。ボカシとは有機肥料を発酵させて原形をぼかすことに由来していた。複数の有機物を微生物の力で発酵させた肥料で、効き目が早く、長い期間効果が持続するという。

ボカシ肥の材料を混ぜる。皆さんのスコップ使いのうまさよ…。

ボカシ肥の材料を混ぜる。皆さんのスコップ使いのうまさよ…。

農教室では過去のボカシ肥の材料やそれぞれの比率がしっかりデータとして残されており、よりよい肥料作りへの想いを感じる。米ぬか、くず大豆、くず米、籾殻、卵の殻、油粕、山土などをしっかりと混ぜ、水を加えて撹拌し、藁を挟み込んだ木枠の中に積み上げる。

 

なぜ藁かというと通気性と保温のため、そして藁には分解・発酵を助ける納豆菌が存在しているからで、この形に至るまで試行錯誤があったとの話を聞く。こちらは1週間おきに切り返しを行い3週間ほどで完成。この作り方は「好気性発酵」と呼ばれるもので、発酵温度が高く、完成が早い。密閉して発酵させる「嫌気性発酵」は、逆に発酵温度が低く、切り返しは不要だが完成までもっと時間がかかるそうである。

 

1週間後、2週間後の切り返しを見学したが、ほのかに天然酵母のパンのような香りがして、それは2週間後の方がより強く感じた。中の温度は50度以上あり、手を入れるとホッカホカ。切り返しは酸素を全体に行き渡らせ、発酵菌を元気にさせるために行われるのだが、「ぬか床をかき混ぜるのと同じ」との説明がとても分かりやすかった。

切り返し前のボカシ肥に手をつっこんで温かさを確認。

切り返し前のボカシ肥に手をつっこんで温かさを確認。

それにしても納豆菌が藁に多くいるとは初めて知った。だから藁づと納豆があるのか。藁だけではなく田んぼや畑、枯草などにもいるようだ。ちなみにこの納豆菌、プラスマイナス100度の環境にも、真空状態にも、乾燥にも強く、何千年でも生き延びると考えられている。もしかしてクマムシ並みに宇宙空間も平気かも。

肥料作りは化学と算数と体育

堆肥作り、ボカシ肥作りを経験して思ったこと。それは「肥料作りは化学と算数と体育の授業みたい」。説明では炭素や窒素といった言葉が飛び交い、材料はきちんと計算された成分比で混ぜ合わされ、そして最後は体力勝負だからである。

 

まず、肥料作りには材料のC/N比(炭素と窒素の比率)が関わってくる。落ち葉や藁などこの比率が高い物(炭素の比率が高い物)は分解しにくいため、堆肥作りでは窒素源となる鶏糞などを加え、切り返しで酸素を補給して発酵を促すという。窒素源を加えなければ分解がもっと遅くなるため、この方法で作られる堆肥は速成堆肥と呼ばれる。では、畑にそのまま落ち葉や藁を入れてはどうか。すると、畑の土の窒素がその分解に使われて作物に行き渡らなくなり、育ちが悪くなる。日常生活の中で窒素を意識することはあまりないが、実はリン酸、カリウムと並んで野菜作りには欠かせない大切な養分なのだ。

 

そして、材料はそのC/N比を見ながら配合する割合が決められる。例えば堆肥なら、落ち葉や藁の総量に含まれる炭素と窒素の量を計算し、堆肥のC/N比を最適にするためには鶏糞を何キログラム加えるかを、鶏糞そのもののC/N比から算出する。ボカシ肥でも、加える水の量は材料重量の40%とされているし、化学だけでなく割と緻密な計算も必要だ。

 

そして最後はそれらを一輪車やバケツで運んだり、足で踏みつけたり、スコップでかき混ぜたりするわけで、体力も必要となってくる。頭も体も使うから、年長の先輩方が皆さんお元気なのも納得。頑張ってついていこう。

【農教室一年生 今回の初耳ポイント】

●ボカシ肥は天然酵母のパンの香り

●肥料作りは化学と算数と体育

●納豆菌は藁にいる

農教室一年生

文・横山珠世/セルフドクター編集室