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第3話 おいしいハチミツのため、春に行うこと

自粛生活が続く中、「外に出て太陽の光を浴びたい!」「体を動かしたい!(でも運動はイヤ)」という欲求を解消すべく2021年の春から参加した、有機・無農薬農業と養蜂を教えてくれる農教室。農業・養蜂で初めて触れる自然界の不思議、生きる知恵、そして新しい生き方の模索。セルフドクター編集室の横山が、自らの体や心で得た学びをシェアしていく連載企画です。

おいしいはちみつ

ミツバチはシマシマで見分ける

農教室の部活動のような形で、月に一度、希望者で行われているのが養蜂部会である。ここで飼育しているのは日本の在来種、ニホンミツバチ。養蜂ではヨーロッパで飼育しやすいように品種改良され日本に持ち込まれたセイヨウミツバチが主流だが、最近はニホンミツバチも増えていると聞く。日本にいるミツバチはこの2種類だけだが、そもそもミツバチは世界中でもたった9種類しかいないそうだ。見た目は、ニホンミツバチは黒っぽくて小柄、セイヨウミツバチは黄色っぽくて大き目。サイズは並んでもらわないと分からないので「お腹のシマシマの幅が広くて黄色い面積が大きいとセイヨウミツバチ」と覚えておく。翅(はね)にある脈で見分けることもできるらしい。シマ模様も脈もハチごとの個体差はないのだろうか。

ニホンミツバチ
セイヨウミツバチ

左がニホンミツバチ、右がセイヨウミツバチ。

春はミツバチもお引っ越しの季節

部会最初の作業は飼育箱の設置。人間と同様にミツバチも春は引っ越しをする季節で、分蜂(分封)と呼ばれる巣別れを行う。そのため、新築もしくはリフォームした飼育箱が必要になるのだ。飼育箱にも種類があり、ここで設置するのは25㎝四方、高さ15㎝ほどの木枠を重ねた「重箱型」と呼ばれる物。巣の成長に合わせて積み重ねることで居住空間を広げられるのは、とても機能的だと思う。

飼育箱の上の枝には、分蜂群が一時滞在するための板が設けられている。

飼育箱の上の枝には、分蜂群が一時滞在するための板が設けられている。

設置場所にも良し悪しがあって、風通しがよく前面が開けた場所がよいとのこと。落葉樹の下がおすすめなのは、夏は木陰が暑さを和らげ、冬は葉が落ちて日光が当たるからだとか。ここでは南向きに開けた見晴らしのよい場所にある、桜の木の下に飼育箱を設置している。桜は蜜源にもなるし、人間だったら賃料アップ間違いなしだ。

 

設置した飼育箱は分蜂した群を捕獲する「待ち箱」の役割も兼ねているため、蜜蝋を塗ってミツバチを誘引する。ミツバチを呼び寄せるフェロモンを放つランの一種、キンリョウヘン(金稜辺)も近くに置かれている。「そんな植物もあるのかぁ」などとネットで検索したら、ミツバチが隙間なくみっちりぎっしりと群がっている画像がたくさん見つかった。フェロモン、恐るべし。

ミツバチが出入りする扉付近に蜜蝋を塗る。香りで寄ってくるのだとか。

ミツバチが出入りする扉付近に蜜蝋を塗る。香りで寄ってくるのだとか。

桜の下、別れの場面に立ち会う

春の引っ越しシーズン中、部会の皆さんから分蜂の知らせが時々届いた。自宅でも養蜂を行っている先輩が中心となって捕獲して飼育箱に移しているようである。しかし平日に様子を見に行くことも難しく、その場面に出会うのは難しいのだろうなと思っていた。

 

そんな4月のある日、農教室の作業を終えて畑から戻ると、桜の木の下に何やら人だかりが。見ると、1つの群が桜の枝にくっついて団子状態になっている。飼育箱を出たばかりの群は、新居が見つかるまで近くの枝などに集まって過ごす。分蜂だ! 群ごとどこかに行ってしまわないように大き目の虫取り網で群を慎重にすくい、枝の上に置いた待ち箱へと移し入れる。待ち箱を閉じて木から下ろし、新居を気に入ってもらえれば引っ越しは完了。嫌がらずに長く住み着いてくれるといいなと願う。

差し出された網の上、枝についたコブのような物がミツバチの群(蜂球)。

差し出された網の上、枝についたコブのような物がミツバチの群(蜂球)。

1つの群に女王バチは1匹、働きバチは30000~60000匹。その寿命は女王バチが2~3年なのに対して働きバチは1カ月程度だとされている。部会に入るまで、分蜂で出ていくのは娘の新女王バチだと思っていた。でも、実際は母親の女王バチが半数ほどの働きバチを連れて出ていく。娘思いのようであり、奔放なようでもあり。そして父親となる雄バチは繁殖のためだけに存在し(働きバチは全てメス)、繁殖の時期が過ぎれば巣から追い出されてしまうという。切ない……。

下の長方形の物が育苗土を敷いた育苗箱。ここに種籾をまんべんなくまいていく。

右端の頭の黒い1匹が雄バチ。忙しそうな働きバチを横目に日向ぼっこ?

養蜂はミニマムな畜産業

部会に入る前は、「ミツバチを飼っておいしいハチミツが食べたいな。将来的にはそれを販売して一儲けしちゃったりして」なんてお気楽に考えていたが、だんだん厳しいことも分かってきた。ミツバチは法律上家畜の扱いであり、趣味で飼う場合でも自治体の畜産を担当する部署への届出が必要。家畜伝染病予防法に基づく検査も毎年受けなければいけない。暑さや寒さ、天敵であるスムシやスズメバチ、場所によってはハクビシンやクマなどからも守ってあげなければいけないし、飼育箱の掃除はもちろん、花の少ない季節には糖液などを与えるのも飼育者の大切な仕事だ。ミツバチにはハチミツなどの生産に加え、果物や野菜の受粉を行う役割もあるし、小さくても畜産業なのだと理解した。なめて取りかかっていたら痛い目にあうところだった。

 

痛い目といえば、攻撃的な性格ではないミツバチも人を刺すことはもちろんある。特に、黒い服装や整髪料の強い香りはミツバチを刺激するそうだ。刺されれば痛いし腫れるよと脅かされて、革製の白い手袋と顔をガードするネットも新たに購入した。

 

春のミツバチは花粉集めに忙しく、後ろ足に黄色くて丸い花粉団子をつけてどんどん飼育箱へと戻ってくる様子がとてもかわいい。今後は、夏にスズメバチ対策、秋に採蜜、そして本格的な冬を迎える前には巣箱の防寒作業が予定されている。昨秋に採れたハチミツをいただいたが、塩バターパンやチーズトーストによく合うコクのある味わいだった。やっぱり「おいしいハチミツ」も「一儲け」の夢もまだ諦められないな。

【農教室一年生 今回の初耳ポイント】

●春はミツバチもお引っ越しシーズン

●巣立ちをするのは母

●養蜂は畜産業

農教室一年生

文・横山珠世/セルフドクター編集室