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第4話 自然循環型の伝統農法「冬水田んぼ」でお米づくりが始まった

自粛生活が続く中、「外に出て太陽の光を浴びたい!」「体を動かしたい!(でも運動はイヤ)」という欲求を解消すべく2021年の春から参加した、有機・無農薬農業と養蜂を教えてくれる農教室。農業・養蜂で初めて触れる自然界の不思議、生きる知恵、そして新しい生き方の模索。セルフドクター編集室の横山が、自らの体や心で得た学びをシェアしていく連載企画です。

伝統的な「冬水田んぼ」でお米づくりが始まった

「冬水田んぼ」で育ったお米がスペシャルな理由

稲作、それはまず春先の田んぼ整備から始まった。農教室の田んぼは、冬も水をはっておく冬水田んぼと呼ばれるもの。子どもの頃、稲作を行っていた祖父の田んぼは稲作後に水が抜かれ、お正月はいとこ達との恰好の遊び場になっていた。冬に水をたたえた田んぼは見たことがないと思ったが、近年全国で少しずつ増えており、このような田んぼで育てられたお米や酒米は、その農法を新たな付加価値にしたブランド米として販売されているそうだ。

 

江戸時代から行われている伝統的な農法の冬水田んぼの主なメリットは、主に以下の3点。

 

①雑草が生えにくくなる

②土壌の質向上

③生物多様性への貢献

 

稲の切り株が水中で分解されて肥料となるのに加え、微生物を含む多様な生き物が住み着いて柔らかな土の層を作り、生き物の補食目当てにやってきた鳥の糞もまた肥料になる。なるほど、農薬や化学肥料に頼ることなく稲作ができるというわけだ。

 

とはいえ畔(あぜ)は傷んでいたりするので、田植えの前に田んぼの土をスコップですくって畔に積み、スコップの背でたたいたり足で踏んだりして固める畔塗りを行う。水漏れ対策として土にはベントナイトと呼ばれる粘土鉱物が混ぜられているため、重いのなんの。しかも長靴の底にもねっとりと付着して動きを邪魔する。誰かの「これで3キロくらい痩せないかな」という声に激しく同感。

畔を整えた田んぼ。水面に青空を映した美しさは、田植え前の季節限定。

畔を整えた田んぼ。水面に青空を映した美しさは、田植え前の季節限定。

収穫量を左右する種籾の準備

次に行ったのが種籾(たねもみ)の準備。農教室では、うるち米、もち米、黒米を育てる。まずは、種籾の選別からスタート。塩水に種籾を入れ、良質な物を選り分ける「塩水選」と呼ばれる方法である。これ、なんと125年も前に確立されたもので、収穫量の大幅アップに貢献したのだとか。塩水の比重は、例えばうるち米なら1.13、もち米なら1.10~1.08など米の種類によって異なるのだが、新鮮な生卵の浮き具合で分かるという。

 

水と塩の量を計算せずに済むのをありがたく思いながら、我々1年生もチームに分かれてチャレンジさせてもらった。しかし、塩を一気に入れ過ぎて卵が完全に浮いてしまうチームあり、塩分控えめで卵が浮かないチームあり、うるち米選別の目安である「水中に立って浮いた状態」にはなかなか至らない。みんなでキャッキャとやっていたら指導役の先輩から「そんなことでは日が暮れる!」と注意されてしまった。

飼育箱の上の枝には、分蜂群が一時滞在するための板が設けられている。

ざるに入れた種籾を塩水に入れて選別。浮いた種籾は残念ながら使えない。

なんとか選別した種籾はネットに入れて水洗いした後、60度のお湯に5分浸す。これは温湯殺菌と呼ばれる消毒の方法で病気を防ぐ効果がある。種籾の量が多い分、お湯の温度管理が難しい。通常はこのような手間はかけず農薬で行うそうだ。

ミツバチが出入りする扉付近に蜜蝋を塗る。香りで寄ってくるのだとか。

量が多いので大きな鍋を使い、温度計で60±1℃を保ちながら殺菌。厳密!

そして殺菌後は、流水に浸して水を吸わせる。発芽に必要な吸水量は吸水前の種籾の重さの10%程度とされており、水に浸す日数は水の積算温度で100℃が目安。つまり、水温が高ければ日数は短く、低ければ長くなるということで、水温を計測して割り出さなければならない。やっぱり計算能力は農業に必要なのだな……。

種苗箱のベッドで芽吹きを待つ

水に浸して1週間後、いよいよ種まきに取り掛かる。トップ画像はこの時の水を吸ってぷっくりとした2つの種籾。最初は上にある種籾の先からヒョロっと出ているのが芽かと思ったが、こちらは「のげ」「のぎ」と呼ばれるひげのような物だと教えてもらった。正しくは下の種籾の肩の部分に少し顔をのぞかせている白い物が芽で、このような状態を「鳩胸」と呼ぶのも可愛らしい。

 

種籾は田んぼに直接まいたりはせず、まずは育苗箱で育てる。根を外しやすくするためにあらかじめ紙を敷いておいた育苗箱に深さ2.5㎝まで育苗土を入れ、その上に端まで均等に種籾をまくように指導される。種籾の量は約80gでおよそ3,200粒。育苗土には、種籾に胚乳が無くなってからの栄養となる窒素やリン酸、カリが加えているそうだ。種をまいたら水をたっぷりかけた後、種籾の上に0.5㎝、育苗箱の高さ3㎝に揃えてすりきりいっぱいに土をかぶせる。

下の長方形の物が育苗土を敷いた育苗箱。ここに種籾をまんべんなくまいていく。

下の長方形の物が育苗土を敷いた育苗箱。ここに種籾をまんべんなくまいていく。

次に、プール状にビニールを敷いた上に育苗箱を並べ、保温と保湿のためのシートをかぶせる。半月ほどでシートを外し、注水して水を張るプール育苗と呼ばれる方法で、均一で丈夫な苗を育てられる上に水の管理の手間が省けるというメリットがあると聞く。約1カ月を目安に中苗(丈が15~20㎝、葉令4~5枚)になるまで育てば、今度は田植えである。ここまでくるともはや子育て中の親のような気分。種苗箱は発芽のためのベビーベッド、上にかける土はおふとん、赤ちゃんである種籾はここで芽吹きの時を待つのだ。がんばって大きくなるんだよ。

【農教室一年生 今回の初耳ポイント】

●冬水田んぼは自然に優しい伝統農法

●やっぱり農業には計算能力が必須

●育苗箱は種籾のベビーベッド

農教室一年生

文・横山珠世/セルフドクター編集室