尿もれ、性交痛、セックスレスなどの女性の下半身の悩みは人には相談しにくいし、かといって病院へ行くのは尻込みしてしまう。そもそも何科に行けばいいのかも悩んでしまいますね。でも、こうした悩みは、免疫力やQOL(生活の質)を下げたり、心の不調につながったりして、女性の生きるエネルギーを奪いかねません。そうした女性のデリケートな悩みの解決法として提案したい「腟ケア」。産前産後ケアの専門家であり、その経験から腟ケアの必要性を訴えている助産師のたつのゆりこ先生にお聞きしました。前編・後編の2回に分けてお届けします。

女性の健康に役立つのに……。日本は腟ケア後進国
腟ケアは簡単にいうと、腟まわりを触ったり温めたり、腟内に指を入れてマッサージしたりすること。心身の健康につながる行為なのですが、なぜかいけないことのような……。そう、腟まわりを触ることはタブーとしてインプットされているのが私たち日本人なのです。
しかし、世界では違います。ヨーロッパでは顔を手入れするのと同様、腟周辺にもクリームやオイルを塗って手入れをするのが当たり前。腟ケアグッズも、デパートなどで手軽に購入できる風土があるといいます。
腟ケアに関してはかなり遅れている日本ですが、近年ようやくメディアで取り上げられる機会が増えてきました。助産師の現場経験を通して、早くから腟ケアの必要性を感じていた、たつの先生。アーユルヴェーダから学びを得て、6〜7年前から妊産婦さんにすすめてきました。
---------------------------------
腟の中の状態をチェックしてみよう!
□うるおっている
□温かい
□柔らかい
□デコボコしている
□ザラザラしている
上記の項目は全て健康な腟の状態です。腟内のうるおいや温かさは血流がよい証拠。柔らかさやデコボコ、ザラザラは腟の柔軟性や伸縮性が保たれている証拠です。
---------------------------------
腟は女性の心身を整えるパーツ
まず、腟についておさらいをしておきましょう。腟は腟口から子宮までをつなぐ筋肉でできた管のような器官。その筋肉を粘膜が覆い、粘液を分泌しています。健康な腟は粘液でうるおい、筋肉が柔らかくて伸縮性に優れています。
腟の直径は2〜3センチメートルですが、出産時には大きく広がり、直径10センチメートルもの胎児の頭が通過します。しかし近年では腟まわりが萎縮していたり、冷えていたりする女性が増え、腟が広がりにくいために赤ちゃんが出るまで時間がかかる、会陰切開になるなどのケースが少なくないようです。
また、腟は男性器を受け入れる器官でもあります。腟が伸縮性を失うと、性交痛の原因となってしまいます。
40歳を過ぎたら腟ケアは必須
腟の萎縮や冷え、乾燥の原因には、過剰なストレスや生活習慣の乱れ、冷え症、加齢などが挙げられます。現代女性はどれか1つは当てはまるのではないでしょうか。たつの先生に少し詳しく教えていただきましょう。
「腟には末梢神経や毛細血管が密集しています。脳とは迷走神経系を経由してつながっているとされ、ストレスなどで自律神経が乱れると、腟まわりも萎縮。同様に、毛細血管が多く通っているので、冷えて血流が悪くなると、腟も冷えてしまいます。さらに腟は子宮とつながっているので、女性ホルモンが減少すると腟の粘膜は薄くなり、粘液の分泌が低下。40歳以降、腟は乾燥しやすくなるのです」。
ちなみに、セックスレスは腟の萎縮による性交痛が原因になっている場合も。腟ケアはセックスレスの予防にも役立つといえます。
「でも、実際のところ、腟の問題に関しては、西洋医学の視点だけで話すのには限界があるのです」とたつの先生。そこで役立っているのが、鍼灸師でもある先生が学んできた東洋医学の教えだと言います。
「東洋医学では、血管、神経、リンパ管の他に、目には見えない気(エネルギー)が流れる経絡があると考えられています。経絡のうち督脈は会陰から背中側に通じる道。背中には自律神経が走っています。経絡で見れば、会陰と自律神経が関係し合っているのは明らかなのです」。
腟ケアは自律神経やホルモン、血流だけでなく、心にも働きかけるそう。これも東洋医学の考え方になりますが、臓器と感情には関連があり、腟を温めると、イライラした気持ちや孤独感が解消され、頭をスッキリさせるのにも有効だそうです。皆さんも、心身のセルフケアに腟ケアを役立ててみませんか。
後編では、「腟ケア」の実践法をご紹介します。
監修/たつのゆりこ先生
1960年生まれ。大学病院(産科・新生児・ICU/CCU)から助産院、自宅出産介助まで幅広い業務経験をもち、東洋医学、アーユルヴェーダの知識を活かして活躍。現在、「Be born 助産院・産後養生院」院長として、お産の介助、出産前後や更年期女性の心身のケアを行っているだけでなく、「伝統医学応用研究所」を立ち上げ、女性の心と体についての勉強会なども開催している。