

捨てられる食材をおいしい料理に!
『もったいないキッチン』という映画をご存知ですか? 日本の“もったいない”精神に魅せられ、オーストリアからやってきた映画監督のダーヴィド・グロスが、日本各地を旅して食品ロス解決の糸口を探すドキュメンタリー映画です。昨年8月に全国で公開されました。旅のパートナーであるニキとともにキッチンカーで全国を巡りながら、日本の食品ロスの現場を突撃し、食材を救済。捨てられる運命にある食べ物をおいしい料理に生まれ変わらせる『もったいないキッチン』をオープン。行き先々に伝わる“もったいない”精神に基づいた様々な食の知恵を紹介します。
福島から鹿児島まで4週間1,600kmの旅。フレンチシェフがネギ坊主まで丸ごと使うもったいない料理、野山が“食材庫”という82歳で医者いらずのおばあちゃんが作る野草の天ぷら、0円エネルギー、自然の蒸気を使った蒸し料理など、“もったいない”精神にあふれたアイデアが次々と登場します。日本の食の課題が多くのメディアで取り上げられた時期とも重なり、実にインパクトのある映画でした。
ナスのヘタまでもしっかり味わう精進料理
映画の中で特に印象に残ったのが、ダーヴィドとニキがアイマスクをして精進料理を食べながら、メニューを懸命に当てようとするシーンです。これは、浅草・緑泉寺の住職青江覚峰さんが考案した「暗闇ごはん」という体験プログラムで、視覚がない中、嗅覚、味覚、聴覚、触覚をフル回転させて食べたものを想像し、その印象を参加者に語ります。2人は食べたものがナスのヘタだと聞かされると、驚きを隠せません。青江さんから「なぜ、ナスのヘタは食べないのですか」と問われ、答えに詰まってしまいます。

もっとヘタを意識して収穫しよう!
青江さんの著書『人と組織が変わる 暗闇ごはん』(徳間書店)にある「ナスの揚げびたし」のレシピには、「包丁で切ったナスのヘタ部分も素揚げして出汁で煮る」と書かれています。ナスを使った料理動画をいろいろとみていますが、大抵の料理人は「ナスのヘタを切って」と説明し、ヘタはゴミ箱行きです。アイマスクをすると、ナスのヘタもちゃんと食べられるのですから、精進料理に込められた“もったいない”精神は実に深いです。青江さんは、食事の大切さに気づいてもらえる仕組みが必要だと思い、この「暗闇ごはん」を考案したそうです。食べることに意識を向け、一人ひとりが自分自身を見つめ直すこのプログラムへの反響は大きく、企業の社員研修でも広く活用されています。現在はコロナでリアルなイベント開催は難しいようですが、いつか「暗闇ごはん」を体験してみたいと思います。
実践したい!『あるものでまかなう生活』

オリンピックでも、弁当廃棄が大きな問題になりましたね
もう1つ忘れられないのが、まだ食べられる食料が大量に処分されるシーンです。映画の冒頭に流れたショッキングな映像に現実を突きつけられ、「あ~、毎日毎日こんな大量に捨てられるのか」とため息が出ました。この部分のナビゲーターは、食品ロス問題ジャーナリストの井出留美さんです。テレビや新聞で食品ロスの話題が出るたびにコメントされておられるので、ご存じの方も多いと思います。映画では、現場を取材しながらダーヴィドとニキとともに日本の食品ロスの問題をわかりやすく伝えています。

井出留美さんの著書『あるものでまかなう生活』(日本経済新聞出版)
食品ロスに関する多数の著書を出されている井出さんですが、私が繰り返し読んでいるのは、昨年10月発刊の『あるものでまかなう生活』(日本経済新聞出版)です。第1章の「あるのにつくる・売る・買うのはなぜ?」 では、賞味期限切れや3分の1ルールなど、どちらかと言うと食の提供者側を縛るポイントに絞って食品ロスを解説。第2章以降には「あるものでまかなう」暮らしの様々な事例が紹介され、取材範囲の広さが伺えます。生活者の視点から、「足りないものだけを買う」「歩いて行ける範囲で暮らす」「最後まで使い切る」など、『あるものでまかなう生活』を送るためのヒントも満載です。帯に書かれたキャッチコピー「食べ切る 使い尽くす 自分を活かす “新しい日常”にすっきりシフト。」が、コロナと共にある今の日常にしっくりきます。ご興味のある方は、ぜひご一読ください。
【告知】
第2話「採れたて野菜をその日に食べる!ミニファームでもなかなかの収穫」でご紹介したwarmerwarmer代表の高橋一也さんがNHKの「最後の〇〇」にご出演されます!日本古来より伝わる「在来野菜」についてMCの草彅剛さんと共に語りますので、こちらもぜひご覧ください!
●9月10日(金)
[NHK BSプレミアム・4K同時放送]
午後10:00~10:59 「最後の〇〇」
文・藤本真穂
ベランダと貸農園で栽培中の野菜を通して“食”を考える会社員。脚本家・向田邦子さんの暮らしを愉しむ生き方が理想。

photo by Wataru Goto