· 

冬よりも気をつけたい夏の「冷え」。血流をよくするためのケアを医師が解説

冬よりも夏の方が「冷え」を感じやすくなってはいませんか? 冷房の利いた室内に長時間いるような環境下では血流も悪くなり、夏バテや疲れを招きやすくなっています。今や夏こそ血流を意識することが大事。女性が日常で実践できる血流ケアについて、東京有明医療大学教授の川嶋 朗先生にお聞きしました。前編に続き、今回の後編では、ステップ式で行う血流ケアをご紹介します。

白湯を飲む女性

血流ケアは3ステップで行おう

血流ケアの最初のステップは、「血液をつくる」です。そのために意識すべきは、胃腸の働きをよくすること。食事で摂った栄養を胃腸でしっかり消化・吸収できなければ、血液の材料を体に取り込むことができません。前編の血流タイプ で、「血液がつくれないタイプ」「血液不足タイプ」に当てはまった人は、このステップからスタートしましょう。

 

次のステップは、「血液の質をよくする」です。血液はただ量を増やせばよいのではなく、質も問われます。中性脂肪などの脂質の多い血液はNG。血液の質をよくするには、十分な睡眠が欠かせません。

 

最後のステップは、「血液を巡らせる」です。そのポイントの1つが筋肉を動かすこと。特に大きな筋肉がある下半身を使った運動がおすすめです。前編の血流タイプ で「血液の流れが悪いタイプ」に当てはまり、他のタイプにチェックがつかなかった人は、このステップからスタートしましょう。

▶STEP1:血液をつくる

食べ過ぎは胃腸の健康を害す

漢方では、エネルギー(気)は胃腸でつくり出されると考えられています。胃腸が弱いと「気」が不足した「気虚」の状態になりやすく、「気」が不足していると血液をつくり出すことができません。生理学的に見ても、胃腸の働きが悪いと栄養の消化・吸収がうまく行えず、血液の材料を体に取り込めません。つまり、血液をつくりにくいといえます。

 

では、胃腸の働きはどのように整えていくべきでしょうか?

「胃腸のことを考えるのならまず食べ過ぎないこと。特に夕食は控えめに」と川嶋先生。栄養素では特に、血液の材料となるタンパク質と鉄をしっかり摂りましょう。また、腸内環境を整えてくれる発酵食品、健胃作用のあるスパイスやハーブの活用もおすすめ。ただし、胃腸によい物でも摂り過ぎはNGです。その他、次のようなことを心がけましょう。

食べる女性

【朝起きたら1杯の白湯】

起床時や食事の前に白湯を飲む習慣をもつとよいでしょう。白湯を飲むと体が温まり、胃腸の働きもよくなります。白湯といっても厳密に考えなくて大丈夫。沸かした湯に水を足したり、水を電子レンジで温めたりするのでもOK。要は体温よりも高い温度の物を体に入れることが大事です。

 

【よくかんで食べる】

かむことによって、口の周りにある筋肉の咬筋から脳に刺激が伝わります。そして神経伝達物質のヒスタミンを出すのですが、これにより内臓脂肪が燃え、体温を上昇させることが分かっています。よくかむことは満腹中枢を刺激するので過食防止にも。1口入れたら30回かむことを目標に。

 

【肉食女子になろう】

タンパク質は血液の材料であり、鉄は赤血球のヘモグロビンの構成要素として重要な栄養素。この2つの栄養素を効率よく摂れるのが赤身の肉。毎月の月経で血液が失われる女性こそしっかり肉を食べたいですね。肉に健胃作用のあるハーブやスパイスを組み合わせると胃腸にもGOOD!

 

【夕食は控えめが基本】

四六時中、何かを口にしているような食習慣は、胃腸に負担をかけてしまいます。特に眠っている間はしっかりと胃腸を休ませたいもの。夕食は腹八分に抑え、寝る2〜3時間前には済ませましょう。朝起きた時にお腹が空いているようであれば、夕食の量やタイミングに問題はありません。

▶STEP2:血液の質をよくする

体内時計を整えることが快眠への近道

私たちの脳や体は睡眠中に疲れをとり、細胞の修復も行っています。睡眠は心身をメンテナンスする大事な時間であり、血液の質をよくするためにも大切です。睡眠不足は血糖値を下げるインスリンの働きを低下させたり、脂質の分解を正常に行えなくしたりするため血液の質を悪化させてしまいます。

 

現代は、「寝つきが悪い」「眠りが浅い」など、睡眠のトラブルを抱えている人が少なくないでしょう。私たちの体は、朝起きてから15〜16時間で、睡眠ホルモンのメラトニンが分泌され、眠気が訪れるようになっています。ですから、起床時間を一定にして体内時計を整え、同じリズムでメラトニンを分泌させることが、夜にしっかりと眠るコツ。さらに起床後は朝日を浴びることも忘れずに。24時間よりも少し長くなっている体内時計のリセットに欠かせません。

 

スムーズな入眠には、体を温めておくことも大切です。それには入浴が一番おすすめ。大事なのはお湯の温度です。湯温は40℃を超すと自律神経のうち交感神経が優位になるため、神経が高ぶってしまい、すぐに寝つくことができません。けれども、40℃以下であれば副交感神経が優位になるので体がリラックス。さらに疲労因子が増えて体がぐったりと疲れるため、入眠もスムーズです。

 

全身浴にするのも大事なポイントです。全身に水圧がかかり、心臓に戻る血液が増えることで心臓から出ていく血液も増え、結果、血流がよくなります。その他、次のようなことを心がけましょう。

入浴中

【お腹はしっかり温める】

胃腸のあるお腹周りは1年中冷やしたくないパーツ。夏でも使える薄手の腹巻を着用するなどし、寝ている間も冷房で冷えないように気をつけましょう。素材は吸放湿性の高いシルクがおすすめです。また、大きな筋肉のある太ももや二の腕は血流が豊富な部位なので露出しないようにしましょう。

 

【0時までに寝よう】

東洋医学では、22〜2時は体の細胞が修復される時間と考えられています。生理学的には、胃腸などの消化管は睡眠中に活発になることから、肝臓では代謝が進み、タンパク質の合成・分解が活発に行われています。血液をつくるためにも0時までには寝るのが理想です。

▶STEP3:血液を巡らせる

日常生活の中に運動を

血流をよくする最後の要となるのは、筋肉。筋肉を動かすことで血流は促進されます。中でも下半身には全身の筋肉の半分以上が集まっているので、下半身を使った運動を行うのがポイントです。運動はしたいけど、毎日忙しいから時間をつくるのはなかなか難しい。そんな方に、川嶋先生からの提案です。

 

「日常生活の中でちょっと嫌なことをしてみましょう。例えば、電車では座らずに立つ。これだけでエネルギー消費量は20パーセントほど多くなります。エスカレーターではなく階段を使う、歩く時は大股早歩きに。また、いすに座る時は両膝をしっかりつけるようにすれば内転筋のトレーニングになります。運動をこう考えていけば、時間がないからできないとはなりませんよね」。

 

加齢と共に減りがちな筋肉をキープするためにも、運動はぜひ習慣化を。その他、次のようなことを心がけましょう。

階段あがる女性

【家事をしながら運動しよう】

洗濯物を干す時、1枚1枚干す度にスクワットをしてみてはいかがでしょう。10枚干せばスクワット10回、立派な運動になります。洗い物をしたり、歯磨きをしたりする時は爪先立ち。これで脚の筋肉が鍛えられます。日々の家事の中にゲーム感覚で運動を取り入れてみてください。

 

【腹式呼吸でリラックス】

ストレスや緊張の多い人は、自律神経の乱れから血流が悪くなっていることも。腹式呼吸は自ら自律神経を整えられる貴重な手段です。息を吸う時は鼻からで、お腹を膨らませるようにします。吐く時はお腹をへこませながら口から吐いていきます。吐く時間を、吸う時の倍にするのがポイント。

 

【ドライヤーでツボを刺激】

血流改善によいツボを1つ挙げるとするなら、女性の万能ツボとして知られている「三陰交(さんいんこう)」。手で押したりお灸をすえたりするのもよいですが、簡単で効果的なのがドライヤーを当てること。ツボに近づけて、熱いと思ったら離す。これを5回繰り返すとよいそうです。やけどの危険性があるので、必ず自分で行いましょう。

三陰交

監修/川嶋 朗先生(かわしま・あきら)

東京有明医療大学教授、東洋医学研究所附属クリニック自然医療部門。北海道大学医学部卒業。ハーバード大学医学部留学を経て、現職に至る。西洋医学と代替・補完・伝統医療を統合した医療を目指す。日本抗加齢医学会評議員、日本統合医療学会理事。西洋医学では、腎臓病、膠原病、高血圧などが専門。