

ドライフルーツとして販路を拡げる宮崎産の金柑
宮崎県の名産といえば、マンゴーの「太陽のたまご」が有名ですが、最近は完熟金柑の「たまたま」も人気急上昇中です。皮をむかずに丸かじりすると、甘みと酸味が口中に広がってとてもおいしい!宮崎県の金柑は、栽培面積、収穫量ともに日本一です。ある時、ドライフルーツにした金柑をお土産にいただき、食べてみると甘みがより凝縮され、あっという間に食べ切るほどのおいしさでした。

干すことで甘みがより凝縮される金柑
商品の名前は、完熟金柑ドライフルーツ『月読(つくよみ)の実』、製造している会社は宮崎県高千穂町の「あまてらすの娘たち」とあります。どちらも天孫降臨の神話が宿る地・高千穂らしいネーミングです。「あまてらすの娘たち」は、2016年に女性2名が設立した会社で、高千穂町で農産物の加工・販売、農家カフェやレストラン経営しながら高千穂の食を広く発信しています。『月読の実』は甘みと酸味がとても好評で、輸出の計画もあるとか。また、加工作業の一部を町内の福祉作業所へ委託し、障害者の雇用創出にもひと役かっています。

中央が『月読の実』、左が万能だれ、右は柚子胡椒
ドライフルーツにすることで、賞味期限は生鮮の状態より長くなって保存食にもなり、重量は軽くなるので輸送面でメリットが生まれます。「あまてらすの娘たち」はドライフルーツの他にも、規格外のネギを使った『万能だれ』や『柚子胡椒』などの瓶詰も製造し、加工食品の流通を拡げつつあります。現在、東京の店舗で購入はできませんが、作り手の思いとともに多くの人に知ってもらいたい商品です。
フルーツ大福で食品ロス削減に挑む高校生社長
加工の方法は、ドライフルーツや瓶詰だけではありません。「味はいいのに傷のある果物」を「大福」にして販売する店舗が、この夏、自宅のすぐそばにオープンしました。

店頭に並ぶ、旬のフルーツを使った大福
店名はチェーン店として知られる「金沢フルーツ大福凛々堂」ですが、この店舗の最大の特徴は、店長の薄井華香さんが現役の高校生だという点。中学卒業後に単身石川県金沢市から上京し、東京で起業した「現役高校生社長」です。実家が野菜の仲卸をやっていて、捨てられる野菜や果物を見てきたことから、一念発起。「規格外のフルーツ」を使った大福の販売を開始しました。「フードロス」に特化した飲食店をオープンするのが将来の夢という、何とも頼もしい店長です。

愛知県産の蒲郡温室みかん(左)と北海道産のすずあかねといういちご(右)
商店街の一角にある店舗は、毎日11時にオープンし、売切次第閉店。店頭には常に8~9種類の大福が並び、それぞれのフルーツの生産者情報がカードに書かれています。今回は、愛知県産の“蒲郡温室みかん”と北海道産の“すずあかね”といういちごを買ってみました。みかんが丸ごと包まれた大福は、かなりの大きさです。きれいに切るには糸を使うのが最適だそうで、箱の中にはそのための糸も添えられていました。ほんのり甘い白餡と柔らかなお餅に包まれて、それぞれのフルーツが新たなおいしさを発揮しているようです。大福が1つでも多く売れて店長の夢が叶うよう、近隣住民の1人として応援しようと思います。
「加工品の力」を発揮する野菜ピクルス
つい先日、野菜をピクルスとして加工・販売するノウハウを学べる学校を見つけました。その名も「ピクルスアカデミー」。山口県萩市産の野菜を使った「萩野菜ピクルス」を製造販売する椋木(むくのき)章雄さんが、2018年に開講しました。元々は野菜の卸売をしていた椋木さん、農家さんの「規格外の野菜をどうにかして欲しい」という切実な声をきっかけに、ピクルス作りに挑戦します。次第にそのピクルスが売れるようになり、「加工品の力」を思い知ったそうです。

疲労回復や食欲増進の効果があるピクルス
ホームページにレシピを公開すると、「作り方を教えてほしい」「自分でも食品加工に取り組みたい」という問合せが相次ぎ、講座がスタート。自宅で作るピクルスと違い、販売するとなると野菜のカットの仕方、煮沸、殺菌、瓶詰め、製造許可、細菌検査などの基礎知識に加えてブランディングも学ばなくてはなりません。現在はオンラインでの受講も可能ですし、講義動画も一部公開されています。

『PEN』10月号のテーマは「捨てない」
ドライフルーツの金柑、フルーツ大福、萩野菜ピクルスは、いずれも野菜や果物を別の形に加工して世の中に送り出す試みです。作り手の「野菜や果物を捨てたくない」という思いが起点になっています。今、書店に並んでいる雑誌『PEN』の10月号のテーマは「捨てない」。「いらない」を「欲しい」に変える世界各国のアイディアにあふれた一冊です。食にとどまらず、ファッションや住まいなど多岐に渡った事例が紹介されており、「循環する未来」へのヒントが見つかりそうです。
文・藤本真穂
ベランダと貸農園で栽培中の野菜を通して“食”を考える会社員。脚本家・向田邦子さんの暮らしを愉しむ生き方が理想。

photo by Wataru Goto