· 

第13話 野菜作りの体験が醸成する、生産者へのリスペクト

今もなお頑張っている千両ナス。いつの間にか秋ナスに

家庭菜園で野菜を作ったことがある人は46.6%

毎年8月31日の「やさいの日」になると、「野菜と家庭菜園に関する調査」の結果が発表されます。調査を実施しているのは、「タキイのタネ」でお馴染みのタキイ種苗株式会社(本社・京都市)です。13回目となる今年の結果をみてみると、「家庭菜園で野菜を作ったことがある」人が全体の46.6%にのぼり、「作ったことがない」人の4人に1人が「家庭菜園で野菜を作ってみたい」と回答しています。家庭菜園を始めた人のニュースはテレビや新聞でよくみますが、この数字をみるとその多さを実感します。

「農家・生産者のすごさを感じた」人が全体の約9割!

「農家・生産者のすごさを感じた」人が全体の約9割!

「家庭菜園で野菜を作ってみて感じたこと」をたずねると、「農家・生産者のすごさを感じた」をあげた人が89.2%と圧倒的なトップです。この結果は、とても納得のいくものでした。収穫した野菜を手にすると、当たり前のように毎年収穫して、出荷している生産者さんはすごい!と素直に思えたからです。2位に「野菜を育てることは想像以上に大変だった」(77.5%)、3位に「家庭菜園について勉強したい・知識を増やしたいと思った」(74.7%)がランクインしたこともうなずけます。やってみて初めてわかることが山ほどあり、まだまだ知識も体験も足りないなあと痛感しましたから。この結果をみていると、「みんな、そうだったのか~」と少しホッとしますね。

都市部の遊休農地を貸農園として再生

都市部の住宅街に増えている「シェア畑」

都市部の住宅街に増えている「シェア畑」

野菜作りの経験者が増えているのは、身近に貸農園が増えたことも後押ししていると思います。私もベランダのプランターで試行錯誤した結果、やはり畑で育ててみたいと思ったことが、貸農園を利用するきっかけでした。3月から借りた3㎡の畑は、プランターではなかなか体験できない「収穫の歓び」をたっぷり味わせてくれました。

「菜園アドバイザー」が常駐し、道具や苗が完備されているため、ビギナーも安心

「菜園アドバイザー」が常駐し、道具や苗が完備されているため、ビギナーも安心

「野菜作りを、もっと身近にする」をコンセプトに、都市部の遊休農地を貸農園へ再生し、野菜作りを行いたい住民に貸し出す「

シェア畑」を運営している会社が、アグリメディア(本社・目黒区)です。首都圏と関西に約100カ所の「シェア畑」があり、コロナ禍以降新たな契約者は2倍に増えたそうです。今年の春、何か所か見学に行きましたが、「残る区画はあと4つです」「現在、空きはありません」と言われ、結局決めきれませんでした。代表の諸藤貴志さんは、「今後は地方の政令指定都市へも拡大し、都市部の農園数300を目指します」と次なるステージを見据えています。

野菜作りには欠かせない、ホームセンターの存在

郊外のホームセンターはとにかく広い!驚きの品揃え!

郊外のホームセンターはとにかく広い!驚きの品揃え! 

郊外のホームセンターに行くと、その圧倒的なスケールと品揃えの豊富さに度肝を抜かれます。園芸用品売場では、種や苗、肥料や培養土、鉢やプランターに加え、手袋、帽子、作業服など、必要なもの全てを展開中。秋植えの時期ということもあり、お客さんのカートもほぼ一杯です。車で来店しないと、これだけの量は持ち帰れません。「きっとお庭も広いのだろうなあ」と、郊外型の暮らしをちょっぴり羨ましく感じます。

大きな袋で売られている土、車での来店がマストです

大きな袋で売られている土、車での来店がマストです

店頭の賑わいを反映するかのように、2020年のホームセンターでの「園芸・エクステリア」の売上高は5,260億円(経済産業省:商業動態統計)。前年同期比10.5%増と大きく伸ばしており、大手ホームセンターの園芸・農業用品も軒並み売上高はアップしています。総務省の家計調査(全世帯)をみると、2020年の1世帯当たりの園芸用植物と園芸用品の支出額は7,004円。こちらも前年に比べて6.7%増えており、野菜作りを始める人が増えている点とリンクします。

手袋だけでも、様々な色やサイズを展開!

手袋だけでも、様々な色やサイズを展開!

こうした傾向は日本に留まりません。つい先日、「シンガポールの若者の間で家庭菜園が大人気!」という記事を見つけました。高層アパートのベランダや通路のプランターで、野菜やハーブを育てているのだそうです。家庭菜園について語り合うSNS上のグループ「アーバン・ファーマーズ(都市農家)・シンガポール」の会員数は48,000人超とコロナ前に比べて5割増し。シェア農地を借りて本越を入れる人も増えています。日本とシンガポールに共通するのは、食料自給率の低さです。コロナで食の供給が途絶えるかもしれないという不安から始まった、家庭菜園や地産地消への興味や関心。その結果、収穫の歓びや生産者へのリスペクトが醸成され、一人ひとりが食の問題と真摯に向き合うのは、コロナがきっかけとは言え、多いに歓迎すべきだと思います。一過性のブームに終わらせることなく、土に触れ、収穫する暮らしが当たり前になることを願います。


東京自産自消

文・藤本真穂

ベランダと貸農園で栽培中の野菜を通して“食”を考える会社員。脚本家・向田邦子さんの暮らしを愉しむ生き方が理想。

プロフィール写真

photo by Wataru Goto