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第14話 「在来野菜」の生産者と食べる人々をつなぎ続けた10年間

東京に暮らしながら「自産自消」の暮らしは実現できるのか? 東京在住の会社員である筆者が、貸農園で野菜づくりに初挑戦。その取り組みへの思いや過程を綴る連載企画です。

日本最古の南瓜、福岡県産の三毛門南瓜

日本最古の南瓜、福岡県産の三毛門南瓜

「在来野菜」を未来へつなぐ価値

9月10日、「最後の○○~日本のレッドデータ~」がNHKBSプレミアムで放送され、以前にもご紹介したwarmerwarmer(ウォーマーウォーマー)代表の高橋一也さんが出演しました。

 

高橋さんは、通常の流通にはのらない野菜を直接農家さんから買い、ご自身で発送も行いながら、野菜の魅力を伝え、未来へとつなぐ様々な活動をしています。この番組は、失われつつある「日本の多様性」を再発見する知的探求ドキュメンタリー。今回の「最後の〇〇」は、刀研ぎに欠かせない「天然砥石」と多様な食文化を生み出してきた「在来野菜」でした。MCの草彅剛さんと高橋さんのやりとりから、当たり前に日々野菜を食べている陰で、日本古来より伝わる「在来野菜」が失われ、やがてそれは和食文化の衰退につながっていくという現状が浮き彫りにされます。

いつも目にする野菜とは大きく異なる在来野菜の色や形

いつも目にする野菜とは大きく異なる在来野菜の色や形

大根だけでも、日本各地に様々な味や形のものがある在来野菜。スタジオ内のスクリーンには、大きさや形が違う大根が映し出され、それらを解説する高橋さん。草彅さんは、高遠辛味大根をすって味噌をとき、そばをつけて実食します。すると「苦味がある。知らない苦味。この苦味、剛知らねぇぞ」という率直な感想を漏らしました。頭で予想した大根の味とは、明らかに違っていたのでしょう。在来野菜の種を懸命に守り続ける生産者、その在来野菜をどう世の中に流通させて、未来につなげていくのか。その大きな課題を静かに語りかける内容で、多くの人が在来野菜の価値を知るきっかけになったと感じました。

 

番組の反響もかなりよかったそうで、高橋さんもさぞや喜んでいるかと思いきや「草彅さんの反応の良さも加わり、在来野菜という言葉が歩いていたように思います。それでも、まだまだ変わることはないですから気を引き締めて、進んでいくしかないですね」とあくまでも謙虚な姿勢は変わりません。

作る人、食べる人、つなぐ人が共にありたい未来

会場の壁一面を埋め尽くす高橋さんの「心の声」

会場の壁一面を埋め尽くす高橋さんの「心の声」

その高橋さんの会社warmerwarmerが、この10月に10周年を迎えました。10周年を記念して開催されたのが、「八百屋と農家の500くらいのメモ」の展示と、「10周年記念お野菜セット+ ZOOM対談ワン!ツー!スリー!」限定50セットの販売。展示は、吉祥寺にあるカフェ「キチム」で開催され、壁一面に昨年3月から書き溜めたご自身の気づきメモと、農家さんの声がぎっしりと貼られていました。

 

メモには「文化、歴史、社会はいずれも優れて人間的なものである。しかし、人間と言えども、自然の中から生まれてきたものである。進化してきたものである。」「死が無意味化すれば生もまた無意味化する。最終的には死が意味を持たないのなら、人生も無意味になる。」どちらも一部分を抜粋したものですが、実に哲学的な言葉が記されていて、深いです。

農家さんから寄せられた様々な声

農家さんから寄せられた様々な声

農家さんには、「現在の状況はどうか?」「2030年はどのような社会か?」という2つの問いを高橋さんが投げかけ、その答えをすべて展示。「気候が激しく、雨が降らなさすぎたり、降りすぎたり一喜一憂しておりますが、種を採ることで、この経験が来年こそは!と未来への希望となる素敵な農業をすることができ、幸せや楽しみを感じながら毎日を過ごしています」や「近い未来、作る人、食べる人、つなぐ人がいっしょにぬくもりをもってつながりあえば最強と思います」など20軒余りの農家さんの今と未来がずしんずしんと伝わってくる言葉が続き、1枚ずつじっくりと読ませていただきました。

気候変動による環境悪化を記した声も多数

気候変動による環境悪化を記した声も多数

ZOOMを通して語られた農家さんたちの思い

これが10周年記念お野菜セット!

これが10周年記念お野菜セット!

吉祥寺のキチムを訪ねた数日後、10周年記念お野菜セットが自宅に届きました。今回は、うどん、切干大根、炒り豆も含めてなんと22種類の野菜がぎっしり詰まった大サービスのセットです!さらに、それぞれの野菜の特徴と食べ方を書いた高橋さんお手製のレジメと、展示会場にあった農家さんの声すべてをまとめた小冊子も一緒に届きました!初めてみる野菜は、高橋さんのレジメとにらめっこで、蒸したり、焼いたりして味わっています。冬瓜を初めて煮てみましたが、口当たりがとてもやわらかく、大満足な仕上がりでした。

高橋さんお手製のお野菜のレジメ

高橋さんお手製のお野菜のレジメ

そして、3夜に渡って開催されたのが高橋さんナビゲートによるZOOM対談です。お野菜セットを購入した人へのスペシャル特典!最初の回は、2人のプロの料理人が今回のお野菜セットをどう調理するか、どう加工するか様々なレシピを紹介。リアルな会場であれば、その場で試食もできるのになぁ……と参加した誰もが思った時間でした。2回目と3回目は岩手県や福岡県などから農家さんが参加し、高橋さんとのこれまでの10年を振り返る中で様々なエピソードが飛び出します。

加熱してトロトロになった冬瓜の食感は最高!

加熱してトロトロになった冬瓜の食感は最高!

アスパラの収穫を自動でできる機械を開発した企業の話から、「収穫するところを機械化するって、何だろう?一番楽しいところなのに。農業で金儲けをしようとしている人たちと、農業を通じて何か別のことをしようとしている人たちは、根本的に違うよ」と発せられた言葉が強く心に刺さりました。高橋さんとつながっている農家さんは、農業を通じてそれぞれが「何か」をしようとしている、だからこそ、これから何をしようかという話に及ぶと限りなく広がっていくのでした。

 

また、「食べている人の顔をみたいよね」とも話され、私たちも生産者の顔がみえると安心するのと同様に、農家さんにとっても、収穫した野菜をどんな人がどんな風に食べているのかはとても興味深いこともわかりました。いつか、農家さん、プロの料理人、そして食べる私たちが一堂に会し、高橋さんを真ん中にしてトークライブ+マルシェ+ビュッフェのような夢の企画を実現したいと心の底から思いました。高橋さんは、これからもゆっくりと着実に歩みを重ねていかれることでしょう。


東京自産自消

文・藤本真穂

ベランダと貸農園で栽培中の野菜を通して“食”を考える会社員。脚本家・向田邦子さんの暮らしを愉しむ生き方が理想。

プロフィール写真

photo by Wataru Goto