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第15話 鉄道が運ぶ朝採れ野菜、食品ロス削減への新たな試み

週3回開設される「TABETEレスキュー直売所」

東松山の朝採れ野菜を、池袋駅で販売

10月は食品ロス削減月間ということで、最近話題の「TABETE レスキュー直売所」に行ってみました。これは、埼玉県東松山市周辺のJA直売所で余った野菜を東武東上線の電車が運び、池袋駅で販売するプロジェクトです。

会社帰り、買い物帰りの人が多い池袋駅南口

会社帰り、買い物帰りの人が多い池袋駅南口

場所は、東武東上線池袋駅南口改札の券売機前で、「レスキュー直売所」ののぼりが目印です。発売開始は午後6時30分頃とTwitterで流れていたせいか、6時少し前にはすでに数名が並んでいました。このプロジェクトは、食品ロスという社会課題の解決のために、株式会社コークッキング、東松山市、東武鉄道株式会社、JA埼玉中央、大東文化大学が連携し、今年3月からの実証実験を経て、8月に本格稼働。

東武池袋駅南口に着いたコンテナ

東松山市内5カ所の直売所で売れ残った野菜を、フードロス削減アプリ「TABETE」を運営するコークッキングが定価の半額で買い取ります。それらの野菜を森林公園駅午後4時58分発の東武東上線に載せ、約50分かけて池袋駅へ移送。野菜を運ぶコンテナ24個は、6時過ぎには台車で次々と南口へと運ばれてきます。この「レスキュー直売所」が開設されるのは、月・水・金の週3回。

次々と売れていく、山と積まれた野菜

池袋駅までの運搬と販売を担うのは、大東文化大学の学生です。コンテナから野菜を出して並べたり、500円の野菜セットを袋詰めしたり、「レスキュー直売所」の準備はなかなか大変です。6時45分頃にようやく販売がスタートし、コンテナに入ったままのキャベツ、テーブルにはナス、里芋、小松葉などが並び、乗り切らない野菜は、床に山のように積まれています。

コンテナに入ったまま売られるキャベツ

積まれた野菜を指さして「その唐辛子、いただくわ!」とリクエストを出すお客さんもいて、学生たちは大忙しです。精算も一人ひとりの商品をチェックしながら電卓で計算するので、買い物の列はゆっくりと進みます。

床に積み上げられた野菜

列に並び始めてから、ナスなどの商品を購入するまでに約1時間。それでも、池袋駅という都心で東松山市の朝採れ野菜を手にできるのは大きな魅力です。それと同時に直売所で売れ残る野菜の量に驚き、他の地域の直売所の野菜はどのように処理されているのか、考えるきっかけにもなりました。

ポスターには「食品ロス削減にお得に貢献!」

食品ロス削減の最大のポイントは“4R”

「レスキュー直売所」を訪れた数日後、ゴミ清掃芸人の滝沢秀一さんの講演をきく機会がありました。テーマは「健やかな心と暮らしへのヒントは『ゴミ』にあり?明日から実践できる、食品ロスの削減」。お笑い芸人の滝沢さんは、9年前の奥様の出産を機にゴミ収集会社に就職し、現場での体験をSNSや書籍を通じて発信。その内容が話題を呼び、昨年秋には環境省の「サスティナブル広報大使」に就任しています。講演では、「秋になると米が捨てられます。新米が手に入ると、それまで食べていた米はゴミ!」「丸ごと捨てられたスイカは、水分を取り除くために粉砕!」など、現場を知る人ならではのリアルな事例がいくつも紹介されます。

ゴミ収集中に目にする現状は、実にリアル

講演の結びに語った言葉が実に響きます。「食品ロス削減のために必要な3R リデュース、リユース、リサイクルは皆さんよくご存知ですね。僕はここにもう1つのR=リスペクトを加え、これからは4Rだと思います。生産者をはじめとする誰かへのリスペクト、これがあれば人の行動は変わると思っています」。これは、食品ロスを発生させる根源を見事に突いている!と心から共感。「レスキュー直売所」のケースも、行政、企業、大学など立場の異なる人々が連携できたのは、この4つ目のRが最大のエンジンだったはず。芸人さんならではリズムと笑いのあるトークで、気づきたっぷりの70分間でした。滝沢さんの新刊『日本全国 ゴミ清掃員とゴミのちょっといい話』(主婦の友社)もぜひ読んでみたいと思います。


東京自産自消

文・藤本真穂

ベランダと貸農園で栽培中の野菜を通して“食”を考える会社員。脚本家・向田邦子さんの暮らしを愉しむ生き方が理想。

プロフィール写真

photo by Wataru Goto