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硬くなっていく血管をケアするには? 医師がすすめる日々の食事と運動の方法

「人の老化は血管から始まる」ともいわれるように血管ケアはアンチエイジングの要。年齢を重ねることで硬くなっていく血管をケアしていくには日々の食事や運動で脂質をコントロールすることが大切です。今回は女性の血管ケアについて、日本の「性差医療」の草分け的存在である天野惠子先生にお聞きしました。前編に続いて、後編では、どのような血管ケアを行ったらよいかを具体的にご紹介します。

食事の工夫で血液中の脂を増やさない

コレステロールが高いから卵はダメ、肉もダメというのではなく、コレステロールや中性脂肪を減らしたり吸収を抑えたりする食材を使って、賢く脂質コントロールしましょう。コレステロールの7〜8割は体内でつくられ、食べ物から摂取されるのは2〜3割しかありません。コレステロールの生成や貯蔵は全て肝臓で行われ、肝臓は体内のコレステロールが一定になるように需要と供給のバランスを上手に調整しています。そのため、コレステロールが多く含まれる食べ物を摂っても、すぐにコレステロール値が上がるということはありません。

 

とはいえ、動物性脂肪を摂り過ぎればLDLコレステロールが増え、炭水化物(糖質)や脂肪、アルコールを摂り過ぎれば中性脂肪が増えるのも事実。バランスを心がけましょう。脂質コントロールのお助け食材となるのが、意外なことにある種類の油。青背魚や亜麻仁油、オリーブ油などの油は、コレステロールや中性脂肪を減らしたり、血流をよくしたりするのに一役買ってくれます。

 

天野先生の心配は、実は更年期よりも20代、30代の女性たち。「見ていると、40代の半ばから50代には料理をする人がたくさんいますが、若い女性たちに聞くと、家に包丁もない、コンビニで買ってきた物を食べるという人も多い。栄養の偏りも多く、あまり摂りたくない油も日常的に摂っています」と先生。これではエストロゲンが出ていても、血管や血流に危険信号が灯ってしまいます。

食事で摂りたいのは「オメガ3脂肪酸」

血管ケアに特におすすめなのが、魚に含まれるEPAやDHA、亜麻仁油などに含まれるα-リノレン酸などの「オメガ3」ことn-3系脂肪酸。この種類の油には、血液中の中性脂肪を減らしたり、血栓ができるのを防いだりする働きがあります。「オメガ3には抗炎症作用があり、認知症の予防にもなるんですよ」と天野先生。また、オリーブ油、キャノーラ油(菜種油)もLDLコレステロールを減らす働きがあります。

 

ちなみに、脂肪酸の種類は、大きく分けて動物性脂肪などの「飽和脂肪酸」と植物性脂肪などの「不飽和脂肪酸」、化学的に生まれた「トランス脂肪酸」に分けられます。飽和脂肪酸はコレステロール値の高い人は控えたい油。この他、コレステロール値にかかわらず控えたい油に、マーガリン、ショートニング、食用精製加工油脂に多く含まれているトランス脂肪酸があります。血管に対する毒性が指摘されているため、加工食品を購入する時は原材料表示を確認するようにしましょう。

また、食物繊維には、コレステロールの吸収を抑える働きだけでなく、糖質の急激な吸収を抑え、腸内の有害物質を体の外に排出してくれるといった、うれしい働きがあります。水溶性食物繊維のほうがコレステロールを減らす効果は高いとされますが、不溶性食物繊維も腸の働きを整えて、コレステロールや中性脂肪の数値を下げる働きがあるため、どちらもしっかり摂ることが大切です。

運動でしなやかな血管を目指す

「年をとれば誰しもキレイな血管ではいられません。それでも硬くなることを防ぎたい。それには内皮細胞が、血管拡張作用をもつ一酸化窒素(NO)を出し続けてくれるような生活をしていればいいわけです」と天野先生。内皮細胞というのは、血管の最も内側にあり、血液と接しています。そこで重要になるのが、血流。血流がよいと内皮細胞がこすれて血管を拡張するNOを放出。これが動脈硬化の予防にもつながります。

 

血流をよくする一番の方法が、運動です。定期的に運動することによって中性脂肪が減り、HDLコレステロールが増えることが分かっており、逆に運動不足の人ほど、動脈硬化が進みやすいことも分かっています。だから厚生労働省も1に運動、2に運動、3に運動と言っているのです。運動で血流をよくし、しなやかな血管をキープしましょう。

有酸素運動で脂肪を燃焼

血管対策としてはまず、有酸素運動から始めるのがおすすめ。そこに筋トレを組み込めば相乗効果が期待できます。運動時間は30分以上を、週3回以上が望ましいですが、時間がなければ10分×週3回でもOK。寒い季節は心筋梗塞のリスクが高まる早朝などの時間帯は運動を避けましょう。

 

有酸素運動は、体内に取り込んだ酸素を使って糖質や脂肪を燃焼しながらエネルギーをつくり出す運動のことで、比較的負荷が軽く、運動習慣のない人でも気軽に始められるのが魅力。有酸素運動を30分以上続けると脂肪をよりよく燃焼できます。代表的なものが、ウォーキング、ジョギング、踏み台昇降、水中ウォーク、ゆっくりした水泳、エアロビクス、サイクリング、ゴルフなどです。

監修/天野惠子(あまの・けいこ)

一般財団法人野中東晧会 静風荘病院特別顧問。日本の「性差医療」研究の草分けとして普及に努め、鹿児島大学及び千葉県にて、性差に基づく女性医療の実践の場として女性外来を立ち上げ、治療に当たる。2009年より現職。日本性差医学・医療学会理事。