刀匠宗秋(むねあき)氏の刻印が彫られた包丁


鍛冶屋さんとのコラボでつくられた「子ども用包丁」
2021年も残すところあとわずかとなりました。つい先日包丁を新調し、調理する気分がピリっと引き締まった感じです。写真上にあるステンレスの包丁がこれまでのもので、「宗秋」の文字が入り、柄の部分にナラの木を使っているのが新調したもの。長さはほとんど変わりませんが、大根を切る時に刃がストンとまな板に吸い込まれていくような感じが、これまでにない手ごたえです。最初はなんとなく緊張しながら包丁を握っていましたが、切れ味のよさに野菜を切るのが楽しくなり、皮もピーラーを使わずに包丁で剥いています。

葛飾区伝統産業の1つである江戸打刃物
包丁を新調した、正確に言うと「注文した」きっかけは、以前にもご紹介した料理研究家の大瀬由生子さんの、「子ども用の包丁をつくったの。」というひと言でした。柏市を中心に食育活動に熱心に取り組まれている大瀬さんですが、「子ども用だからこそ、本物を使って欲しい」という気持ちから、鍛冶屋の職人さんとコラボして、オリジナルの包丁を開発。制作を担った八重樫打刃物製作所は、刀匠の流れをくむ鍛冶屋さんで、当代の八重樫宗秋さんは、刀匠宗秋の4代目を襲名されています。職人さんの手による包丁に興味津々、私もつくっていただくことにしました。
包丁の仕様を決め、1本ずつ手作り
最初に八重樫打刃物製作所に伺ったのは、今年の7月。葛飾区の京成立石駅から歩いて10分ほどの住宅街に、その工房はありました。まず、八重樫宗秋さんが刃の形や柄の部分に使う木材について説明して下さり、仕様が決まると1本ずつ手作りされることをようやく理解。店頭で「これにします」と選ぶ感じとは全く違い、1つ1つを吟味しながら決めていきます。刃の形は、大瀬さんが開発された「子ども用包丁」を迷わず選択。包丁の先端が丸みを帯びて、落としてもケガをしないよう配慮されている点が決め手でした。私自身にもありがたいですし、さらに上の年代の方にとっても価値のある配慮だと感じました。

気持ちがあがる、名前入りの包丁
次に選んだのが柄の部分の木材です。メープル、柿、トチ、カリンなどのサンプルが並ぶ中、私が選んだのはナラの木です。なんとなくあたたかみのある茶色と、天然の木目が気に入りました。刃の形と柄に使う木材が決まると、最後に「お名前はどうしますか?」と言われ、マイ包丁だ!と嬉しくなり、「お願いします」と伝えました。工房では、宗秋さん、宗秋さんの叔父様、20代の2人の職人さんが鎚をふるい、料理人が使う和包丁や理容師が使う剃刀など、プロユースの道具を作り続けています。
手入れしながら、長く大切に使いたいマイ包丁!
再び八重樫打刃物製作所に伺ったのは、11月下旬。緊急事態宣言などもあり、注文してから4カ月が経っていました。宗秋さんから受け取った箱を開けると、名前の刻まれた包丁が・・・。お願いした通りに仕上がっています。そして、包丁を研ぐ場合は、目の粗さの異なる2種類の砥石を使う方がよい、まな板はできればゴム製のものを使うと包丁を痛めないなど、貴重なアドバイスをいただきました。きちんと手入れができるだろうか? 砥石で研いだりできるのだろうか? ちょっと不安にもなりましたが、職人さんが作って下さった世界にたった1本の包丁です。しっかり毎日手入れをして、大事に使いたいと思います。

包丁の手入れについて書かれたメッセージ
大根や白菜などの冬野菜が安くておいしい季節です。おろしたてのマイ包丁で野菜をザクザク切っていますが、刻まれた自分の名前を目にすると、より丁寧に使おうという気持ちが湧いてきます。それと同時に、調理ももっと丁寧に・・・と思うようになったことも嬉しい効果です。包丁の手入れのポイントは3つ。
①使用中は他の食器にあたらないよう気をつける。
②シンクや水の中に放置しない。
③使い終わったら熱湯を包丁全体にかけてから収納する。
熱湯をかけることで、水分が早く乾くそうで、毎日励行しています。

お目当てのゴム製まな板は見つからず
宗秋さんおすすめのゴム製まな板を探して、いくつか店舗をみてまわりましたが、なかなか「コレだ!」というものに出会えていません。料理人が推奨するゴム製まな板もありますが、お値段はびっくりするほど高い上に、厚みがかなりあって洗うのに苦労しそうです。かっぱ橋の道具街あたりに行くと、もっといろいろあるのかもしれませんね。包丁が新しくなったことで、周辺の道具にもにわかに興味が湧いてきました。
文・藤本真穂
ベランダと貸農園で栽培中の野菜を通して“食”を考える会社員。脚本家・向田邦子さんの暮らしを愉しむ生き方が理想。

photo by Wataru Goto