
コロナ疲れやリモートワーク疲れ、さらには年末の忙しさも加わって、疲れを抱え込んではいませんか?疲れが解消できないのは、ケアの仕方が間違っているのかもしれません。今回は漢方の観点から女性の疲れをタイプ分けし、その対策を紹介していきます。東京女子医科大学附属東洋医学研究所所長の木村容子先生にお聞きしました。前編・後編にわたってお伝えします。
女性は35歳を過ぎると疲れやすくなる!?
女性ホルモンの影響を強く受けている女性の体。ホルモンバランスの変動が大きい時期や年代には、より疲れやすくなるといえます。女性ホルモンの変動が大きい時期の代表といえるのが、月経前。体温が高くなり、だるさや眠さ、疲れを感じやすくなります。これは「活動的にならないで」という体からのサインですから、サインに従って無理をしないことが大切です。
更年期になると、女性ホルモンの分泌量が急激に減り、ホルモンバランスが乱れやすくなります。女性の更年期は閉経前後の10年間を指し、一般的には45~55歳頃。ただし、ある日を境に急に更年期に入るわけではなく、女性ホルモンの分泌量は30歳前後をピークに、下降線をたどっていきます。「30代後半ともなれば女性なら誰しも、疲れやすさが気になり始めます」と木村容子先生は言います。
頑張り過ぎると老ける!?

漢方では古くから、女性は7年、男性は8年周期で体が変化すると考えられています。女性は28歳、35歳、42歳、49歳と7年周期で体が変化。体が最も充実する28歳をピークに、以降は「気(氣)」が減っていくと考えられています。28歳以降は徐々に「エネルギー(気)」が減っていきますから、20代でできたことが40代や50代ではできなくなるのは当然なのです。
こういった年齢変化を受け入れられない人は、「こんなはずじゃない……」とさらに頑張ってしまい、エネルギーを余計につかって、疲れやすい体になってしまいます。もともと体力のある人ほど、このような傾向があるそうです。加齢と共に疲れやすくなるのは、体の仕組みとしては当然のこと。そこでさらに頑張るのではなく、小さなエネルギーでも疲れないような工夫、疲れをこまめにケアすることが大切です。「特に女性は頑張り過ぎると疲弊し、老けてしまいます」と先生。キレイと健康のためにも賢い疲れ対策が必要です。
多くの女性が抱える「貧血」も疲れの原因に
貧血を原因とする疲れも女性特有のものです。貧血の多くが、体内の鉄が不足するために起こる「鉄欠乏性貧血」。月経によって毎月、血液を失う女性は、半数以上が貧血、あるいは貧血予備群ともいわれています。
鉄欠乏性貧血は、鉄が不足することで全身に酸素を運ぶ赤血球中のヘモグロビンがうまくつくれなくなり、体の酸素欠乏を招くというものです。貧血の症状は様々で、疲れの他、肩こりや肌荒れ、爪の変形などを引き起こします。また、鉄は皮膚のコラーゲン線維の生成にも必要なミネラル。鉄が不足すると肌の健康も損なわれて美容面にも影響します。
鉄欠乏性貧血の予防・改善には、食事が大切です。レバーや肉類、魚類に多く含まれるヘム鉄は吸収率がよいのでおすすめ。海藻類や野菜、大豆などに含まれる非ヘム鉄を摂る時には、鉄吸収を促進するビタミンCを多く含む食物と一緒に摂ると効果的です。
1日に必要な鉄摂取量は、月経のある女性の場合10.5〜11mg。ただ、月経で30〜80mLの出血があると、毎月15~40mgの鉄が喪失(血液1mL中に鉄約0.5mg含有)するため、食事だけは十分に摂取しにくいこともあります。この場合は、鉄分を配合したサプリメントやドリンク剤を上手に活用しましょう。
漢方における疲れは、「気」や「血」が不足した状態

漢方では、「気(き)・血(けつ)・水(すい)」を体の構成要素と考え、この3つのバランスが整っている状態を〝健康〟と考えます。「気」は生命活動の源となるエネルギー、「血」は血液、「水」はリンパ液や汗などの体液を意味しています。疲れは主に「気」や「血」が不足した状態です。
検査値に異常はないが「疲れやすい」「疲れがとれにくい」といった不調段階(未病)から治療に取り組めるのが漢方の特徴です。漢方が疲れにアプローチする場合、まずは不足分を補うことからスタート。最終的には、「気・血・水」の3つがバランスよく体内を巡ることを目指します。
疲れ対策の基本は、睡眠をしっかりとること

「気・血・水」は同列かというと、違います。「血」や「水」はいわゆる物質。物質を動かすにはエネルギーが必要です。そのエネルギーとなるのが「気」で、一番重要。疲れのケアとしては、不足した「気」を補うことが何より優先されます。
「漢方では、『気』を補うものは〝食事〟と〝睡眠〟と考えています。この2つのうち、優先すべきは睡眠。疲れている時は胃腸が弱っていることも多く、そこで無理に食べると消化・吸収のためにエネルギー(気)をつかってしまい、かえって疲れを助長してしまう可能性もあります」と木村先生。多忙な日が続いた後や、月経中などの疲れやすい時は、意識的に早く床に就き、普段よりも長く睡眠をとってエネルギーをチャージするようにしましょう。
「疲れを感じているうちは、まだよいほうです。疲れが慢性化すると、疲れに対して鈍感になり、疲れを感じにくくなってしまいます。また、疲れそのものよりも、冷えや肩こり、胃腸の不調、頭がボーッとするなど、多様な症状を訴えるように。こういった様々な症状の背景に、疲れが隠れていることが多いのです」と木村先生。疲れが慢性化すると虚弱状態が進行し、気力がなくなり、体も思うように動かなくなり、年齢以上に老け込んだ感じになってしまう恐れがあると言います。また、抑うつ状態など精神面にも悪影響を及ぼしてしまうこともあるそうです。
そうならないためにも、疲れはこまめに解消することが大切です。その日に消耗したエネルギー(気)は、その日のうちに十分に睡眠をとってチャージすることを心がけましょう。
30代半ば以降は、エネルギーの無駄づかいをしない
「女性は体のピークを過ぎた30代半ば以降は、エネルギー(気)の無駄づかいをしないこと。具体的には、家事も仕事も何でも100%こなそうと思わないことです。10代や20代の頃よりエネルギー(気)は確実に小さくなっています。何事も力任せで行うのではなく、経験に基づき、常に物事に優先順位をつけることが大切です。今、一番やるべきことは何かを考えて、意識して力を抜くことがポイントです。頑張るこがよいことだと思っている人は発想の転換が必要です」。
無理して頑張らないのが疲れないコツ。これは老化の予防にもつながります。賢く力を抜いて、明日の元気をつくりましょう!

監修/木村容子先生(きむら・ようこ)
東京女子医科大学附属東洋医学研究所所長、教授。お茶の水女子大学卒業後、中央官庁入省。英国オックスフォード大学大学院留学中に漢方と出会い、帰国後退職して東海大学医学部に学士入学。2002年より東京女子医科大学附属東洋医学研究所に勤務。医学博士。日本内科学会認定医。日本東洋医学会理事、専門医、指導医。著書に『女40歳からの「不調」を感じたら読む本』(静山社文庫)、『太りやすく、痩せにくくなったら読む本』(だいわ文庫)、『ストレス不調を自分でスッキリ解消する本』(さくら舎)他。