
花粉症の本格シーズンを迎えました。今年は寒気が流れ込んだことで飛散時期が例年より遅くなっており、スギ花粉の飛散ピークは、2月下旬〜3月上旬の福岡に始まり、東京では3月中旬〜下旬とされています。毎年つらい症状に悩まされる花粉症。対症療法ではなく根治治療を考えるのも一案ではないでしょうか?今回は、ながくら耳鼻咽喉科アレルギークリニック院長の永倉仁史先生にお聞きしました。
Q:花粉症対策はいつから始めるのがよいの?
花粉症によるアレルギー性鼻炎は、一度症状が出てしまうと鼻の粘膜がどんどん敏感になり、症状が強く出やすくなってしまいます。症状が出る前から薬をのむなどの対策をとり、粘膜を過敏にさせないようにしましょう。
基本的に薬は症状が出た時に使うもので、予防としては使いません。しかし、花粉症については他の病気と異なり、毎年同じシーズンに症状が現れることが分かっていて、原因もはっきりとしています。そのため、薬による初期予防治療が認められています。花粉症のシーズン前に薬をのみ始めれば、発症を遅らせたり、軽い症状で抑えたりすることができるのです。
以前は、2〜3週間前から薬をのみ始めるとされていましたが、現在は薬が改良され、約1週 前からでも間に合うようになりました。花粉情報をこまめにチェックし、飛散時期が来る前に診察を受け、症状に応じて処方してもらいましょう。
スギ花粉は2〜4月がシーズンですが、ヒノキは3〜5月、イネ科やブタクサなどは初夏から秋と、1年を通じて様々な花粉が飛散しています。スギ花粉の飛散時期以外にも症状が出る場合は、アレルゲンを特定する検査を受けるとよいでしょう。
Q:普段の生活でできる対策は?
花粉症治療の基本は、できる限り花粉を体内に入れないよう工夫する、セルフケアにあります。薬だけに頼らず、少しでも花粉から身を守りましょう。
最も有効なのは、マスクやメガネを用いて物理的に花粉が体内に入り込むのを防ぐ方法です。顔にフィットして隙間がないマスクを着用すれば、それだけで花粉を吸い込む量を6分の1まで減らすことができるとも。顔のサイズに合った立体型の花粉症用のマスクを選びましょう。目のかゆみが強い時は、花粉症用のメガネを使うのもおすすめです。
また、花粉の飛散時期は洗濯物や布団を屋外に干さない、窓を極力開けないようにし、室内への花粉の侵入を防ぎましょう。さらに加湿器を用いて適度な湿度を保てば、粘膜の保護や花粉の舞い上がりを防ぐなどのメリットもあります。規則正しい食事や睡眠を心がけ、免疫力の低下を防ぐことも大切です。
Q:病院ではどんな治療をするの?
花粉症の治療は、症状を予防・緩和するための対症療法が中心となります。病院では採血してアレルギー検査を行い、原因を特定します。その上で、重症度や症状の出方に合った治療を選択します。治療薬には多くの種類があり、相性や使用感の好みは人により異なるので、使ってみて効果が出なかったり副作用が強かったりした時は医師と相談し、症状を効果的に取り除く選択をしましょう。
症状が強い場合は、粘膜の一部をレーザーで焼いて症状が起こらなくする手術もあります。ただし、これによりアレルギー体質が根治するわけではないので、いずれ元に戻ります。たび重なる手術は鼻の粘膜を痛めてしまうので、繰り返し行うのは注意が必要です。
根治療法として、抗原となる花粉エキスを注射や舌下で体内に少量ずつ取り込み、アレルギーが起こらない体質に改善する免疫療法もあります。
Q:舌下免疫療法は効果があるの?
アレルギーの原因であるアレルゲンを少量から体内に投与して行う免疫療法(減感作療法) は、唯一、花粉症の根治が見込まれる治療法です。欧州を中心に100年以上前から研究、開発が進められ、注射でアレルゲンを投与する方法は定着しています。しかし注射部位が腫れるなどの問題があり、1990年代からは舌下に投与する方法が開発され、普及してきました。すでに欧州では舌下免疫療法の効果が認められ、ガイドラインも作成されています。
日本でも、スギ花粉症と診断された12歳以上を対象に、2014年10月から保険適用で舌下免疫療法を受けることができるようになりました。これは、アレルゲンであるスギ花粉のエキスを舌下に少量ずつ投与することで、体が過剰に反応しないように免疫システムを変えていき、花粉症の症状を起こさないようにするものです。具体的には次の方法で服用します。
①スギ花粉のエキスを舌下に滴下し、2分間保持してのみ込む(錠剤もあり)
②徐々に滴下量を増やしながら、毎日服用する
③スギ花粉の飛んでいない、症状がない時期から開始する。最低3年以上、数年間続ける必要がある
④少なくとも1カ月に1度受診する
既に行われた臨床研究では、2年目まで規則正しく治療を継続した人の80パーセント以上で症状が軽くなり、花粉症治療薬の量や服用期間の軽減に至ったとされています。さらに、スギ花粉症だけでなく、ぜんそくなどのアレルギー反応が出にくくなる傾向があることも明らかになりました。
治療には数年かかるとされていますが、2014年秋から治療を始めた人へのアンケート結果を見ると、1年未満でも95パーセントの人が効果を実感しています。
免疫療法は少しずつ体を花粉に慣らしていく治療なので、しっかりとした効果が現れるまでには時間がかかります。しばらくは対症療法と併用して進めることもありますが、対症療法の薬を使わずに花粉シーズンを乗り切ることを目標に、治療していきます。

監修/永倉仁史先生(ながくら・ひとし)
ながくら耳鼻咽喉科アレルギークリニック院長。1982年東京慈恵会医科大学卒業。同大学や東京厚生年金病院の耳鼻咽喉科勤務などを経て06年より現職。日本アレルギー学会専門医。花粉情報協会理事。国の花粉症研究にも参加。著書に『スギ花粉症は舌下免疫療法(SLIT)でよくなる!』(現代書林)など。