· 

冬に起こりやすい「冷え」や「胃腸の不調」を、食べ物のチカラで解決しよう

年始の忙しさや、新型コロナウイルスの再拡大による生活環境の変化により、心身に疲れがたまっていませんか。今回は、漢方的なアプローチから、食べることを通して心身を癒やす方法をご紹介します。東洋医学にも詳しい、目黒西口クリニック院長の南雲久美子先生にお聞きしました。前編・後編 にわたってお伝えします。

食べ物は「薬」になる。知恵ある食で養おう

「薬も食も源は同じであるという医食同源の考え方でいえば、食べている物は全て薬になるといっても過言ではありません。自然界にある薬効をもった物が、生薬(しょうやく)。身近な物では米も麦もお酒も  全て生薬と考えられるのですよ」と南雲先生。

 

日本でも古くからこの考え方があり、今でも残る伝統的な風習にそれを見ることができます。例えば、元日の朝に飲むお屠蘇。酒やみりんに複数の薬草を浸した物で、胃に働きかける生薬を多く使っているのが特徴です。そして、1月7日の朝に食べる七草粥には、正月で疲れた胃腸のケアに有効なセリ(生薬名・水芹)などが使われています。

 

漢方薬は基本的に生薬を2つ以上組み合わせます。生薬を組み合わせることで、単一で使う場合とは別の作用になったり、組み合わせる数によって効き方が変わったりします。「漢方薬の芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)は生薬を2種類しか使っていないので、効きめがシャープです。一方、生薬を多く組み合わせた漢方薬は、マイルドで多方面に効果があります。こういった特徴を踏まえ、何千年もかかって組み合わせを考えてきたものが現在の漢方薬なのです」。  私たちのごく身近にも存在する生薬。それぞれがもつ性質を知り、おいしく食べる「薬」として上手に取り入れていきましょう。

冬におすすめ!健胃作用のある食材

“冷えは万病のもと”といわれるように、様々な不調の原因となりうる冷えを防ぐことが、冬を健康に過ごす基本といえます。漢方では冷えに対して、健胃作用のある生薬を多用します。

 

●しょうが

生のしょうがは「生姜(しょうきょう)」、湯通しまたは蒸してから乾燥させたのが「乾姜(かんきょう)」といい生薬名も性質も異なる。生姜は香りがよく、胃を健康に保つ。乾姜は血行を改善し、じっくりと温める。生薬の中でも温め効果は抜群。

 

●みかん

皮は「陳皮(ちんぴ)」と呼ばれる生薬で、胃の働きを活発にする作用がある。陳皮は七味唐辛子の香りづけにも使われている。

 

●しそ

しその香り成分であるペリルアルデヒドが胃液の分泌を促し、胃腸の働きを回復させる。

 

●ねぎ

体を温め、胃腸の働きを整える作用がある。発汗を促し、かぜの予防にもおすすめ。

 

●れんこん

胃の粘膜を保護する作用があり、胃腸の働きを高める。漢方では体を潤す食材の一つ。

 

●山いも

滋養強壮作用があり、胃腸を丈夫にするのにも有効。

 

上記以外の健胃食材としては、にら、にんにく、らっきょう、黒豆などが挙げられます。スパイス類では、山椒、ウコン、シナモン、白こしょう、クローブ、ナツメグなどが挙げられます。

「冷え・胃腸の不調」におすすめの食べ方とは?

冷えと胃腸の不調、この2つは全く別の症状のように見えますが、漢方ではどちらも健胃作用をもつ生薬でアプローチすることが多いです。胃腸で食べ物の消化・吸収がうまくできないと、体の熱をつくり出すことができません。そのため、胃腸の働きを整えることは、冷えの予防・改善にも有効なのです。健胃作用をもつ生薬の多くは、体を温めるのにも有効です。代表的なのが、しょうが。ねぎやにんにくなどの薬味も温め効果が高いので、料理に活用しましょう 。

 

暴飲暴食や冷たい物ばかり摂っていると、胃の働きを悪くしてしまいます。特に夜は、胃腸を休ませるためにもこれらの習慣は極力控えたいもの。それでも夜、どうしてもビールが飲みたい時は、食事で工夫を。鍋などの温かい料理を、薬味と共にいただくことをおすすめします。

 

●アイデア1

スパイスをお米に混ぜて

ウコン(ターメリック)はしょうがの仲間で、健胃作用をもつスパイスです。ごはんを炊く際、ぬるま湯で溶かしたウコンとバターを混ぜれば、鮮やかな黄色のごはんになります。   

 

●アイデア2

しょうがはすりおろして冷凍保存

すりおろしたしょうがをフリーザーバッグに入れ、板状で冷凍保存しているという南雲先生。使う時に必要な分だけ折り、みそ汁や紅茶などに入れるそう。

 

●アイデア3

薬味たっぷり香味だれ

健胃作用のあるしょうが、しそ、ねぎ、にんにくを細かく刻み、煮切った酒と同量のしょうゆ、砂糖をお好みの量加えたたれに浸け込みます。鍋料理のつけだれとして、また肉や魚にかけてもOK。冷蔵庫で1週間ほど保存可能。

監修/南雲久美子先生(なぐも・くみこ)

杏林大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学、関東逓信病院、北里研究所東洋医学総合研究所での研修を経て、1996年より現職。東洋医学と西洋医学を融合した治療を行っている。