
脳梗塞などの脳血管疾患は、寒い冬に起こりやすいと思ってはいませんか?実は夏も発症しやすく、その原因は脱水にあります。こまめな水分補給で脱水を予防すると共に、日頃から、血液の健康を意識することが大切。生活習慣病に関する注目トピックスを交えながら、血液を健康に保つコツについて、前編に続いて後編では、生活習慣を取り上げます。
血液の 健康を保つ基本的な対策となるのは下記の8つです。
<血液を健康に保つための基本対策>
① 食事の質を意識する
② 年齢に応じて食事量を変える
③ 朝食を抜かない
④ 運動して筋力を維持する
⑤ ストレスをためない
⑥ 禁煙
⑦ 質のよい睡眠をとる
⑧ 血液検査を定期的に行う
①と②については、前編で紹介しました。ここからは、生活習慣の具体的な対策を見ていきましょう。
③朝食を抜かない
朝食の欠食率は、男女共に20代で最も高いことが、厚生労働省の調査で分かりました。
「朝食を食べないのは、生活リズムや食習慣が乱れている証拠。前夜に深酒したとか、食べ過ぎたとか、夜の過ごし方が朝食に現れるもの。朝食を食べようというのは、生活習慣を正そうというメッセージなのです」と寺本民生先生。事実、朝食を食べない日がある人は、毎日食べる人よりメタボリックシンドロームになるリスクが高いとされています。生活習慣の立て直しは、朝食を食べることから始めてみるとよいでしょう。
④運動して筋力を維持する
運動は血液を健康に保ち、生活習慣病を予防する有効な手段です。近年ではウォーキングやジョギングなどの有酸素運動の他に、筋トレの重要性も叫ばれています。
例えば、糖の約70パーセントは筋肉で消費されているため、筋肉が減ると血液中に糖がたまりやすい状態に。筋トレで筋肉量を増やしたり、維持したりすることは、糖尿病の予防につながります。
また、動脈硬化を防ぐためにも筋肉は重要。筋肉が増えることで血液量が増え、HDL(善玉)コレステロールを増やすことができるからです。HDL コレステロールは血液中や血管の壁にたまったコレステロールを回収する役割をもち、動脈硬化を防いでくれる存在。この値が基準値より低い状態は「低HDL コレステロール血症」といい、脂質異常症と診断されます。
こんなにも私たちの健康に寄与してくれる運動。時間をつくるのはなかなか難しいことですが、まずは週1回からでもよいので定期的に運動する習慣をつけましょう。有酸素運動と筋トレの組み合わせがおすすめです。

⑤ストレスをためない
ストレスが過剰になると、血糖値を上げるホルモンのアドレナリンやコルチゾールが分泌されやすくなり、逆に、血糖値を下げるインスリンが働きにくい状態に。こうしたホルモン分泌の乱れが、血糖値などに悪影響を及ぼし、生活習慣病につながっていきます。
ストレス対策に有効なのが、ここでもまた運動。筋肉の維持・増強という身体的なメリットと共に、〝爽快感〟という精神的なメリットももたらしてくれます。「仕事が終わってから運動するのは気が重いものですが、運動後は気分爽快。ストレス解消の意味でも運動は役立ちます」と、運動を習慣的に行っている寺本先生は言います。
⑥禁煙
「たばこを吸っていてよいことは、何一つない」と寺本先生。例えば、たばこの燃焼時に生じる一酸化炭素が体内に入ると、血液中のLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪を増やしてしまいます。1日に10本以上吸う人は、脂質異常症やメタボリックシンドロームのリスクが高まります。
また、たばこは血圧にも悪影響を与えます。たばこを1本吸うと、血圧が10~20㎜Hg上昇するといわれ、動脈硬化のリスクが高まります。喫煙習慣がある人には、生活習慣病予防のためにも、禁煙をすすめます。
⑦質のよい睡眠をとる
近年では、睡眠と生活習慣病の関連が明らかになってきています。例えば、睡眠不足はインスリンの働きを低下させることから、睡眠不足の人は、そうでない人に比べて糖尿病の発症リスクが約2~3倍、高血圧症の発症リスクは約2倍といわれています。また、睡眠時間が短くなると食欲を増すホルモンが増え、逆に満腹感につながるホルモンは減るので、過食を招きやすい状態に。睡眠時間が極端に短い人は肥満になりやすいことも分かっています。
必要な睡眠時間は人それぞれで、年齢や季節によっても変化するもの。目安として6~7時間台の睡眠をとる人は、生活習慣病のリスクが低いというデータが出ています。すっきり目覚められ、日中も特に不調がなければ、よい睡眠がとれているといえるでしょう。
⑧血液検査を定期的に行う
血糖値やコレステロール値、血圧が異常値でも、自覚症状はほぼ現れません。だからこそ大切なのが、定期的に健康診断(健診)を受けること。企業に勤めている人は、年に一度の健診が義務づけられていますが、主婦や自営業者は義務ではないために、健診の受診率も低くなっています。
健診の受診率から健康格差を見ることもできます。厚生労働省の平成26年調査で、所得と健診受診率との関係が初めて示されました。世帯所得が200万円未満の低所得者層は、高所得者層に比べて健診受診率が低くなっています。
企業の健診がない場合は、地域の特定健診(40歳以上)を受けるなどし、定期的に血液の健康状態をチェックするようにしましょう。最近では、簡易検査を行う薬局があり、自分で自宅でできる検査キットが売られています。どういった食事を摂ったり、生活を送ったりした時に数値が変化するのかを知る手段として、活用してみるのもよいでしょう。異常値が出た場合は、すぐに医療機関を受診してください。

監修/寺本民生(てらもと・たみお)先生
医学博士。1973年東京大学医学部卒業。帝京大学医学部学部長などを経て2013年寺本内科・歯科クリニック開業。専門分野は、内分泌、代謝、動脈硬化。日本動脈硬化学会名誉会員、日本成人病(生活習慣病)学会名誉会員。帝京大学医学部臨床研究医学講座特任教授、帝京大学臨床研究センター センター長。