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夏の脱水は脳血管疾患リスクに。医師が教える「血液を健康に保つ」食養生

脳梗塞などの脳血管疾患は、寒い冬に起こりやすいと思ってはいませんか?実は夏も発症しやすく、その原因は脱水にあります。こまめな水分補給で脱水を予防すると共に、日頃から、血液の健康を意識することが大切。生活習慣病に関する注目トピックスを交えながら、血液を健康に保つコツを、前編・後編にわたってお伝えします。前編では、食習慣について紹介します。

血液はその人の生活習慣を映し出す

血液は、体の健康状態を教えてくれる心強い存在。自覚症状が現れにくい糖尿病や脂質異常症も、血液検査をしていれば早い段階で気づくことができるのです。

 

糖質や脂質に偏った食生活、運動不足や睡眠不足などの悪しき生活習慣は、動脈硬化の原因に。動脈硬化が進めば、脳血管疾患や心疾患などの重篤な病気を招き、認知症や寝たきりになったり、最悪の場合亡くなるる可能性もあるのです。そうならないためにも、普段から血液や血管の健康を維持したいもの。血液検査を定期的に受け、血液が教えてくれる情報を見逃さないことが大切です。

アメリカ人よりも高い日本人のコレステロール

日本人の血液の状態は今どうなっているのでしょうか? 動脈硬化や生活習慣病の専門家、寺本民生先生に聞きました。

 

「戦後、日本は欧米に追いつけ追い越せで発展し、食生活も欧米化しました。体格がよくなり、肥満も増えました。血中コレステロール値でいうと、1970~90年にかけて日本人のコレステロールの平均値は上昇し、2000年にはアメリカ人とほぼ同等。2010年にはアメリカを抜いています。アメリカはコレステロールを下げることを国策にし、平均値は順調に下がってきています。逆に日本では、どんどん平均値が上がっているのです」。

 

また、認知症の中でも脳の血管障害によって起こる「脳血管性認知症」は、高血圧や糖尿病との関連が指摘されています。認知症予防のためにも、血液の健康を保つことが大切です。基本的な対策となるのは下記の8つです。

 

<血液を健康に保つための基本対策>

① 食事の質を意識する

② 年齢に応じて食事量を変える

③ 朝食を抜かない

④ 運動して筋力を維持する

⑤ ストレスをためない

⑥ 禁煙

⑦ 質のよい睡眠をとる

⑧ 血液検査を定期的に行う

 

それぞれの具体的な対策を見ていきましょう。

①食事の質を意識する

糖質や脂質を摂り過ぎると、血糖値やコレステロール値、中性脂肪値を上げることは分かっていても、なかなか食習慣は変えられないものです。

 

「これはもう人間の性で、脳は甘い物、脂っこい物、塩辛い物をおいしいと感じるようにできているのです。これを変えることは難しい」と寺本先生。そもそも糖質も脂質も、体にとって必要な栄養素。制限するというよりも、まずは〝質〟を意識するのがよいそうです。

 

「食事で目指すべきは、野菜や魚、大豆、発酵食品などで構成された伝統的な日本食。中でも魚と大豆製品に関しては、生活習慣病予防に効果があることがデータで明らかになっています。伝統的な日本食にならった食事は、〝The Japan Diet〟 と呼ばれ、脂質異常症などの治療にも用いられています」。

 

<糖質の吸収を緩やかにする食物繊維を賢く取り入れる>

日本人やアジア系の人は遺伝的に糖尿病になりやすい体質のため、糖質とのつき合い方には注意が必要です。ご飯やめん類などの炭水化物も糖質(複合糖質)ですが、気をつけたいのがお菓子やジュースに含まれる、砂糖を主とした「単純糖質」。「複合糖質」と比べて血糖値が上がりやすいとされます。

また、腹囲が男性85cm 以上、女性90cm 以上の内臓脂肪がたまっている人は、糖尿病のリスクが高くなるとされます。「当てはまる人は、食事における糖質を50%に減らすぐらいの対策が必要」と寺本先生。主食のご飯を半分に減らすなどの工夫をし、野菜や海藻類は毎食摂るよう心がけましょう。これらの食材に多く含まれる食物繊維は、糖質の吸収を緩やかにし、血糖値の急上昇を防いでくれます。

 

<動脈硬化の予防に優れたn-3系脂肪酸の割合を増やす>

脂質の摂取については、動物性脂肪の「飽和脂肪酸」よりも、魚油や植物性脂肪の「不飽和脂肪酸」を多く摂るようなバランスを心がけましょう。不飽和脂肪酸のうち、魚油や亜麻仁油に代表される「n-3系脂肪酸」は、現代の日本人に不足しがちな脂肪酸。動脈硬化に有効なので、積極的に摂るようにしましょう。

オリーブ油には、動脈硬化の要因となるLDL(悪玉)コレステロール値を下げる働きがあるとされています。そのオリーブ油をはじめ、野菜や魚介をたっぷり使った地中海食は、動脈硬化を防ぐ食事として、世界的に注目されています。

 

一方、控えたい脂質は「トランス脂肪酸」。マーガリンやショートニング、ファットスプレッドなどに含まれています。血管に対する毒性がある点でも注意が必要。加工食品を購入する際は、原材料を確認することが大切です。

②年齢に応じて食事量を変える

糖質や脂質とのつき合い方は、年代によって異なります。特に摂り過ぎを気にしなければいけないのは、40~50代。男女共に性ホルモンの分泌量が低下し、体に脂肪がつきやすい頃で、生活習慣病のリスクも高まります。一方、成長期の子どもや、低栄養になりがちな高齢者は、摂取量の制限が、健康面でマイナスになることも。ライフステージ別に摂取量は調整していくものと考えましょう。

 

糖質や脂質が気になる人は、血糖値やコレステロール値の上昇を防ぐ食物繊維を配合した特定保健用食品(トクホ)を活用するのも一案です。

 

後編では、血液を健康に保つための生活習慣を紹介していきます。

監修/寺本民生(てらもと・たみお)先生

医学博士。1973年東京大学医学部卒業。帝京大学医学部学部長などを経て2013年寺本内科・歯科クリニック開業。専門分野は、内分泌、代謝、動脈硬化。日本動脈硬化学会名誉会員、日本成人病(生活習慣病)学会名誉会員。帝京大学医学部臨床研究医学講座特任教授、帝京大学臨床研究センター センター長。