
悩んでいる人が多いにもかかわらず、軽視されがちな頭痛。近年の研究では、痛みの水面下にある脳の異常な状態が分かってきました。多くの頭痛患者を治療している清水俊彦先生に、頭痛のケアについてお聞きしました。
新型頭痛「脳過敏症候群」とは?
頭痛はあまりに身近な痛みであるためか、それほど重要視していない人も多いのではないでしょうか?
頭痛にも様々なタイプがあり、日常生活の中で慢性的に起こる片頭痛や緊張型頭痛、群発頭痛など、いわゆる慢性頭痛(一次性頭痛)と呼ばれているものがある他、クモ膜下出血や脳腫瘍など、重篤な病気の一症状として現れる頭痛(二次性頭痛)もあります。
「慢性頭痛は命にかかわるものではありませんが、ただの痛みとして軽視してはいけません」と語るのは、頭痛専門医の清水俊彦先生。痛みの水面下にある脳の興奮状態を放置しておくと、新型頭痛ともいわれている「脳過敏症候群」に進行させてしまうことがあると言います。
脳過敏症候群とは、片頭痛や緊張型頭痛などを長年放置していることなどにより脳が興奮しやすくなり、ちょっとした刺激でも頭痛が起きるようになる疾患。頭痛以外の症状に、耳鳴り、めまい、頭鳴、抑うつ感、不眠、イライラなどがあります。
そもそも、慢性的に頭痛が起きる人の脳は、生まれつき敏感な性質をもっていると、清水先生は言います。
「脳のセンサーが敏感。つまり、脳の働きがよ過ぎるのです。度を過ぎると頭痛や不快症状につながりますが、能力や才能としてプラスに働く側面も。夏目漱石や芥川龍之介も頭痛もちだったといわれています」
脳過敏症候群の場合、頭痛に精通した医師による治療を要します。水面下にある脳の異常な興奮を、処方薬であるトリプタン製剤で鎮めることが主な治療法となりますが、清水先生いわく、「治療の極意は生かさず殺さず」。脳の過敏性を完全に抑え込むことは、その人の能力や才能を抑え込むことになってしまうからです。
過敏な脳は年齢によって症状を変える

母親が片頭痛もちの場合、子どもが片頭痛体質、つまり脳の過敏性を受け継ぐ確率は7割ともいわれています。子どもの頃から体質を見極め、脳を刺激し過ぎない生活を送るなどの対処を心がけましょう。
●小児期
小児の片頭痛は発作時間が短く、1~2時間、長くても6時間程度。頭痛以外の症状が現れるケースも多く、乗り物酔いしやすい、熱けいれんを起こしやすい、寝言が多い、落ち着きがないなど。11歳以下では発症率の男女比に差はないが、それ以後は女児の方が増加する
●思春期(女性)
女性は初潮が始まる思春期頃から片頭痛が起こりやすくなる。この頃の頭痛は、大人と比べて症状が顕著ではないのが特徴。痛みも緊張型頭痛のようにだらだら続くため、仮病に見られることも
●20〜40 歳(女性)
片頭痛の発症には女性ホルモンが影響しているため、女性の場合、性成熟期にあたるこの時期には、本格的な片頭痛が現れやすい
●更年期(女性)
女性ホルモンが減少する更年期以降は、発作的に片頭痛が起きることはなくなり、再度だらだらとした痛みになる。耳鳴りやめまい、抑うつ感などの症状として現れることも
●高齢者
加齢に伴い脳の血管が硬くなることで三叉神経の刺激が減り、片頭痛はほとんど起こらない。ただし、脳過敏の症状として、耳鳴りやめまい、抑うつ感などの他、性格が激しくなるなども起こることがある
●男性
片頭痛は女性だけのものではなく、男性にも起こり得る。男性が頭痛を起こしやすいのは生活リズムが変わりやすい休日。頭痛が起きても、「普段の疲れが出たせい」「寝過ぎたせい」などと思うため、それが片頭痛であることを認識しにくい傾向にある
ブルーライトに注意! 脳を刺激しないために気をつけたいこと

「脳が敏感で頭痛を起こしやすい体質の人は、脳を刺激しない生活を心がけることが大切」と清水先生は言います。まず気をつけるべきは、季節や気圧などの“変化”。季節の変わり目や台風が近づいてきた時に、片頭痛が起きてはいませんか? 女性の場合、女性ホルモンが変化する月経や排卵期に片頭痛が起きてはいませんか? それは過敏な脳が“変化”に刺激され、脳内物質のセロトニン分泌が不安定になり、頭痛を引き起こしているのです。驚くことに、地殻変動をキャッチして地震の前に頭痛が起きる人もいると言います。
「今、問題なのがブルーライトです。パソコンを使わない仕事はほとんどないといってよいくらいですし、スマートフォンも一日中手放せない。いわば四六時中ブルーライトによる刺激を受ける生活です。ブルーライトは人が目で見ることのできる光(可視光線)の中で最も強いエネルギーをもち、網膜から脳へとダイレクトに届けられるために、脳への刺激が強いのです」
対策としては、パソコンを使う時は画面の光量を落として使う、ブルーライトカットの眼鏡をかける、などもおすすめです。
頭痛が起きた時の対処法
「頭痛が起きた時に、市販の鎮痛剤をのんで痛みをとる。これは対処法として間違っていません。ただし、市販の鎮痛剤は痛みは取れますが、水面下にある脳の興奮を抑えることはできません。脳の興奮を長年放置しておけば、脳過敏症候群になりやすくなります」と清水先生。
また、鎮痛剤をのみ過ぎることで、頭痛の症状が悪化・慢性化してしまう「薬物乱用頭痛」を招く危険性もあります。頭痛と上手につき合っていくには、鎮痛剤の適切な使い方を身につけることが必須。薬をのまずに痛みを我慢するメリットはないため、用法・用量を守って服用し、痛みは早くとってしまいましょう。女性の場合は月に4~5回、男性は月に1~2回、頭痛で市販の鎮痛剤をのむのは問題ありませんが、服薬回数がもっと多くなるようなら、頭痛に精通した医師による治療が必要です。

監修/清水俊彦(しみず・としひこ)先生
医学博士。東京女子医科大学客員教授。86年日本医科大学卒業。92年東京女子医科大学大学院修了。95年米国National Headache Foundation認定医。東京女子医科大学脳神経センターや汐留シティセンターセントラルクリニックなどで頭痛外来を担当。著書に『脳は悲鳴を上げている』(講談社+α新書)、『頭痛女子のトリセツ』(マガジンハウス)など多数。